メッセージ

イラク出張報告

 総理特使として、3月2日より4日までイラクを訪問し、現地時間3日午後7時30分(日本時間4日午前1時30分)より約2時間、アジーズ・イラク副首相(首相はフセイン大統領が兼任)と会談し、小泉総理のフセイン大統領宛親書を手交しました。この種の会談として異例の長さだったと思います。なお、実際のやりとりでは、双方が議論のベースをどこにおくかも含め、各々の主張をかなり強力かつ自由に議論しましたが、以下はその概要を敢えて論点の形で整理したものです。


アジーズ副首相との会談

1. イラク側に伝達したメッセージ

(1)イラク情勢が切迫している現状に鑑み、事態の平和的解決をギリギリまで追求するために、イラクに対し、深刻な結果をもたらさないために必要な行動をとることを求める。自分の特使としての訪問と総理親書の携行はそのためのものである。

(2)我が国は唯一の被爆国として大量破壊兵器(WMD)の不拡散を国際社会に求めている。イラクの問題は大量破壊兵器拡散に対する国際社会全体の懸念。我が国は大量破壊兵器を保有せずに現在の成長と繁栄を達成した。人的・天然資源に富むイラクも、大量破壊兵器と決別して繁栄することが可能。有史以来のイラクの歴史を遡っても軍事力に頼らずに繁栄を謳歌してきた。

(3)イラクは査察に十分に協力的ではなく、関連安保理決議を履行しているとはいえない。この点を否定する国はどこもない。ブリックスUNMOVIC委員長とも電話会談したが、委員長も同意見。UNMOVICの対応は公正であり、3月7日の査察の報告において、イラクが十分に協力していると報告されることが深刻な事態を招かない唯一の方途。それを可能とするのはイラクの決断と行動のみである。

(4)イラクが態度を変更し、完全な協力が査察団により報告されれば、平和的解決がなされ、過去の良好な日・イラク関係も回復されることが可能となる。

2. アジーズ副首相の主張

(1)特使の訪問を歓迎。アラブ首脳会議、イスラム諸国首脳会議等の対応のため、大統領は多忙につき自分(アジーズ副首相)が代わって親書を受領する。

(2)イラクの大量破壊兵器開発は、イラク・イラン戦争での防衛目的であり、湾岸戦争においても使用することはなかった。91年の安保理決議687受諾後WMDを廃棄し、98年の査察団の撤退後も大量破壊兵器開発を行っていない。安保理決議1441も受諾し、査察に協力している。査察は日々進展している。査察団側が更に多くを要求することは自然なことであり、イラクはそれに応えている。3月7日には進展があるとの報告がなされよう。

(3)査察団(UNMOVIC及びIAEA)及びイラクに決して友好的ではないような国も含め、世界の多くの国(仏、独、露、中、アラブ首脳会議、非同盟諸国等を例示)は、査察に時間を与えるべきとしている。

(4)イラクは、(イ)大量破壊兵器は保有していない、(ロ)大量破壊兵器不保有を決定している、(ハ)査察に協力する、(ニ)安保理決議に従った平和的解決を希求している、との4点を小泉総理に伝達願いたい。

(5)日本が平和的解決を求めるなら、状況を客観的に判断し、米国によるイラク占領を支持することが日本の利益となるか熟考して、立場を決められたい。日本は北朝鮮問題で建設的な役割を果たしており、イラク問題においてもそのような役割を果たしてほしい。

3. 主要な論点とその結果

(1)日本側の主張につき、基本的に考えが共有された点

 (イ)3月7日の査察の結果が事態の推移を決める重要な意味を持つということ。(但し、時間は限られているか否かについては、認識の差が残りました。)

 (ロ)査察への協力度合いにつき、現時点ではイラクとUNMOVIC間に認 識の差があること。査察の結果を左右するのはイラク側の態度次第であり、イラク側はそれを縮める努力をすること。(しかしながら、イラクは国際社会が納得する形で疑惑を自ら解消する必要があるとの日本側の主張については、必ずしも査察報告前にイラクが対応を変更するかは明確にされませんでした。)

(2)イラク側があくまで強調した点

 (イ)ブリックスUNMOVIC委員長は客観的・中立的であろうとしているかもしれないが、米国の圧力を受けていること。

 (ロ)国際社会が大量破壊兵器開発を問題視しており、イラクの協力を必要としていることは理解するが、査察の継続を望んでおり、米国の主張は国際社会に受け入れられていないということ。

 (ハ)新たな安保理決議案は平和的解決のための努力の一環ではなく、あくまでも武力行使のための手段であるということ。

 (ニ)米国は査察の継続に反対している。米国の目的が、大量破壊兵器廃棄ではなく、イラクの占領・支配、石油の支配であることは明白である。米国が攻撃した場合には毅然と戦う。戦争となっても、91年と同様、イラクという国家も現政権も生き残るだろう。

4.会談を通じての印象

 イラク側は、今回の特使訪問に真摯に対応してくれたと思います。但し、双方の意見の相違は大きく、懸命な説得を試みましたが、ギャップを完全に埋めることは残念ながら出来ませんでした。

 会談を通じ、特に強く感じた点は、

(1)国際社会の分裂(査察継続 対 新決議)がイラク側に明らかに誤ったメッセージを与えていること。

(2)よほど強い圧力がなければ、イラクが自ら査察に全面協力し、大量破壊兵器を完全に廃棄することは不可能であること。