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タイ・インド出張概要


1. 出張概要:
日 時: 平成16年8月16日~22日
場 所: タイ、インド
内 容:

IT分野・科学技術分野での両国の政府要人との意見交換及び関連施設の視察

 タイはタクシン首相の指導の下、今後ASEAN諸国でのリーダー国としての貢献が期待されるとともに、インドはその豊富な人材資源を活用したソフトウェア産業の推進に国家レベルで力を入れるなど、両国は科学技術・IT分野において極めて重要な国。タイとはIT・科学技術に関する政策対話、eパスポート導入の促進、インドとはIT分野における経済連携促進のための協議の実施などをそれぞれ合意。

雨期にも関わらず、まずまずの天候に恵まれ、タクシン首相をはじめとする両国の関係大臣との会談及びソフトウエアパークなどの施設訪問を行い、我が国との協力促進のために大変有意義な訪問とすることができた。

   

2. タイ王国

(1) タイ王国IT概況:
1.

インターネット普及率:9.65%、PC普及率:3.98%

2.
IT政策所管省庁: 情報通信技術省(スラポン・スープウォンリー大臣)
3.
主なIT施策実施状況:
1996年に内閣が承認したIT2000計画に引き続き、2000年に策定したIT2010を現在推進中。緊急性の高いテーマとしては、ソフトウェア産業育成、電子政府構築、中小企業におけるIT活用促進をあげている。
また、タイの経済社会を底上げするためのICTの有効利用に焦点を当てており、特に、2万バーツ(約6万円)以下の安価で良質な国産パソコンの普及奨励により、国産PCのシェアが70%にも上った。
(2) 会談概要
1.
タクシン首相
  • 私より、アジア地域の情報流通量を拡大するためにも、両国の協力のみならず多国間協力の推進が重要であることを発言。特にアジアにおけるIT基盤の整備、人材の育成が重要であり、ゆくゆくは、タイと協力してアジア全体のIT戦略といったものを作っていくことも重要ではないかと指摘した。
  • タクシン首相より、タイでは日本の大学等との高度な連携が進みつつある一方で、まずは自国内の情報化を進めるべく、一般国民が容易に情報技術を手に入れられるための施策、及びブロードバンド化に尽力している旨発言。タイ周辺の途上国に対して日本の支援の期待を表明。
  • 私より、タイと進めている経済連携協定の推進は重要であり、中でも協定に規定される協力分野において情報通信技術は柱となるものであると発言。さらに、具体的に我が国が来年実施するeパスポートの連携実験においてタイと協力して行きたい旨を申し上げた。
  • タイと日本はアジアにおける2本の主要な柱として、この分野における連携協力を強化し、アジア全域のIT推進に貢献していくことを確認した。


ASEANの将来を担うタクシン首相と会談

2.

スラポン情報通信技術大臣

  • タイでは「ICTコリドー」と呼ぶ、ネットワークをメコン流域に広げていくプロジェクトの計画があり、ここにおいて日本の協力を期待する旨表明。
  • 私より、我が国もタイ=シンガポール=ベトナム=日本といったIT連携の考え方があり、これを中心として該当地域に広げていくことも考えられると発言。また、アジア発の標準化推進の必要性について言及すると共に、タイが進めるIT2010計画の中でも我が国のノウハウが活用できる部分において協力できると発言。
  • スラポン大臣より、コンテンツ開発について、特に日本のアニメーション産業との連携について推進したいと考えており、11月にもタイのコンピューターゲーム、アニメーション関連の企業と共に訪日する催しを計画していると発言。タイはコスト競争力があるが、日本の産業界からは知的財産についての信頼が十分得られていないと認識している。この点についてタイ政府としても十分に検討していくつもりである旨表明。
  • 私から、知的財産の問題は重要であり、まずは貴国からのきちんとした説明で関係者を安心させることが必要であり、できることは日本政府としても協力したい旨発言。


こちらは礼儀正しいスラポン情報通信技術大臣

3.

ゴーン科学技術大臣

  • 私より、日本の科学技術政策の現状、総合科学技術会議の役割について説明。両国間の科学技術協力の更なる進展を図るため、今後、日本の総合科学技術会議議員とタイの同様な立場にある有識者との間で、科学技術政策に係る政策対話を行っていくことに合意。
  • ITERの日本誘致のアジア諸国にとっての意義と我が国の技術的優位性について意見交換。ITERの我が国への誘致について理解を求めた。
  • 本年11月に京都で開催される「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム(STSフォーラム)」へのゴーン大臣の参加を確認。


まさにたたき上げの政治家といった感じのゴーン科学技術大臣

(3) 視察:
 (1) タイランド・サイエンスパーク (Thailand Science Park)
1.

概要:

パーク内の太陽電池開発研究所、BIOTEC(バイオテクノジー)、NECTEC(情報・通信・コンピューター技術)の3つのラボを視察。


タイランド・サイエンスパーク内の太陽電池開発研究所

2.

所感:

 日本留学経験者が各センターの主任クラスで活躍しており、また、BIOTECでマラリア治療薬の開発のためにマラリア原虫の酵素の構造を解明した主任研究員のヨンユット・ユッタウォン氏は、本年の日経アジア賞を受賞するなど、日本とのつながりが強い。また、若手研究者の育成に力を入れている。研究施設が隣接しており、融合分野の研究を行うには適した環境にあると感じた。

3.
参考:
  • 国家科学技術開発庁の傘下にあるタイ初の産学官連携を重視した科学技術分野の研究開発拠点(2002年4月事業開始)。隣接するアジア工科大学、タマサート大学等との連携を構築し、タイの科学技術開発の中心
  • 職員数:1,556人(うち研究者・技術者867人)
  • 国内外の民間企業等のR&D部門を誘致(約30社)。日本からは、東京工業大学や情報通信研究開発機構などが共同研究開発等の活動を実施
 (2) タイ・マイクロエレクトロニクス・センター
   (TMEC : Thai Microelectronics Center)
1.

概要:

ここでは実際にクリーンルーム(空気中における浮遊微粒子が管理された空間)内にて研究設備等を視察。

2.

所感:

タイへ半導体産業を誘致すべく、半導体製造プロセスを確立するための初期段階の研究開発が行なわれており、我が国としても製造装置・技術等のサポートが活かせる点も多いと思料。他方、停電により数ヶ月の研究成果が無駄になることがあると聞き、技術レベルの向上とともにインフラ整備にも課題があると感じた。

3.

参考:

  • 国立・コンピュータ技術センター(NECTEC)傘下に2003年に設立
  • タイ初の半導体関連施設で、半導体チップの開発から生産までを可能とするべく、研究開発・生産設備への投資が行なわれている
(4) 雑感
タイは何度か訪問していたが、ここ数年は街中に入ることがなかった。高速道路が格段に走りやすくなり、新交通システム(BTSスカイトレイン)が稼動し、地下鉄が開通の上Suica同様のコンタクトレスICカードを使った最新システムが入るなど、タクシン首相のリーダーシップの下で改革が着実に進歩していると実感した。


夕食に出て来た巨大ナン!

3. インド

(1) インドIT概況:
1.

インターネット普及率:1.74%、PC普及率:0.72%

2.

IT政策所管省庁:

連邦政府: 通信・IT省(ダヤニディ・マラン大臣)

州政府: 各州IT省

3.

主なIT施策実施状況:

1998年、当時のヴァジパイ首相がITをインドの国家的重要育成分野とする旨を表明して以来、一貫してソフトウェア産業育成を中軸に置きながら、政府のアクションプラン策定、通信・IT省新設、ソフトウェアパークの展開、IT人材育成と様々な施策を実施してきている。

現在は、「2008年ITビジョン」に基づき、IT産業の更なる育成、人材育成、雇用機会創出などに取り組んでいる。

ソフトウェアに関しては、既にインドの総輸出額の20%以上を占める。

(2) 会談概要:
1.

マラン情報通信技術大臣

  • 私より、我が国はインドを重視しており、今月は私の他にも川口外相、中川経済産業相が同国を訪問するなど、日印グローバルパートナーシップの具体的な協力を一層推進したいと考えており、中でもITにおける協力は柱になると発言。
  • マラン大臣より、ソフトウェア・ハードウェアにおける両国の強みを活かすことにより両国は補完関係を構築することができ、世界市場を視野に入れて協力を推進していく事が重要と発言。
  • 私より、言語や我が国の商習慣の特性などが障壁となり未だ協力関係は十分とは言えないが、今回訪問したインドの企業などではそれを理解するレベルになっていることを実感した旨発言。
  • マラン大臣より、バンガロール等においては特別な言語トレーニングセンターで日本語をインド人エンジニアに教育していること、また、インドは人員コストの面でも製造コストの面でもメリットが大きく、日本との協力関係の進展を望む発言あり。
  • 私から、日印間の協力推進のみならず、アジアを世界の情報流通におけるハブに育てる為の視点が重要であり、共にアジアにおけるIT先進国としてこれを先導していく必要がある旨発言。さらに両国間でIT分野に特化したワーキングループを設置すること、必要に応じてお互いにミッションを派遣することを検討すべきと提案。
  • マラン大臣より、提案に同意するとともに、できるだけ早く結果を出すべきであると考えている旨発言。


マラン情報通信技術大臣。ヒゲはあるが何と37才。

(3) 視察:
 1. インド工科大学ムンバイ校(IIT: Indian Institute of Technology, Mumbai)
1.

概要:

人材育成について説明を受けた後、遠隔授業の模様とその設備を視察。


2.

所感:

国内に7拠点を持つインド工科大学の1つ。日本の東北大学や名古屋工業大学等とも交流がある他、テクノロジー・インキュベーションに力を入れており民間企業からの委託研究も多いなど、広範なネットワークを有していることに感心。

3.

参考:

  • インド工科大学はインド最難関の理工学系大学でありアジアでもトップクラス。
  • ムンバイ校は、技術部門、科学部門の他に情報技術、バイオ・テクノロジー等に力を入れており、学生数4,600名を擁する


インド工科大学のムンバイ校キャンパス内にて

 2. タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS: TATA Consultancy Services)
1.

概要:

TCS社の概要、海外展開の状況について説明を受けた後、オフィス内を視察。

2.

所感:

プログラミングからソフト開発の代行、アウトソーシングへと業態を拡大すると共に、全世界で取引を行うなど世界市場戦略に感心。インドで対応するオフショア、顧客先へ出向くオンサイト、顧客のそばで開発を進めるオフサイトと顧客との関係において様々な対応をきめ細かく行っている。その為の高度な人材育成にもかなり力を入れている。

ムンバイ市内からひどい交通渋滞とスラム街を通過して今回訪問したバ二アンパークは自然豊かな環境にあり、広大な敷地内にオフィスが点在し、ソフト開発には理想的なビジネス環境を構築していることが印象的であった。

3.

参考:

  • 従業員:27,000名
  • 売上高:10億4,000米ドル(2003年度)IT企業ではインドで最大手
  • 金融、銀行、保険業界等の分野における世界中の大手顧客に対して、アウトソーシング、システム開発・運用管理等のサービスを提供


理想的なオフィス環境のタタ社バンヤン・パーク

 3. ソフトウェア・テクノロジー・パーク
   (STPI: Software Technology Park of India)
1.

概要:

施設全体を管理するSTPIにて説明を受けた後、実際に施設のひとつであるROGIXパーク内のオフィスを視察。


ROGIXパーク内で入居企業関係者から質問を受ける。
インド人はとにかく自己主張が強い。

2.

所感:

ネットワーク、停電時のためのバックアップ等のインフラに加え、フィットネス施設も備えた環境を持つインテリジェント・オフィス。同一の施設内に、1人から入居できる部屋から何百人が働けるオフィス・スペースまでが整備されており、ベンチャー的な企業から、その企業が成長した場合までがサポートされているなど、STPIの加盟社が増加している理由の一つとして実感。

3.

参考:

  • ソフトウェアの輸出振興のための、インフラ提供を目的としたインド通信・IT省傘下の国営組織
  • オフィススペースを有料で提供するほか、税の免除など加盟社へのインセンティブを準備
  • 95-96年の60社から02-03年には3,700社がSTPIに加盟


デリーのソフトウェア・テクノロジー・パークで記念植樹

(4) 雑感

 公称1400万人、恐らく更に500万人は住んでいると言われるインド最大の都市ムンバイでは、インド門、博物館、ボンベイ大学等を時間の関係上車上より視察。建物から感じられる雰囲気はイギリス植民地時代を反映して、アジアというよりは西洋に近いと感じた。そして郊外につながる道路の両側の店の風景は、やはりアジアというよりアラブ世界的。

 ただ、かなりの悪路と山のようにあふれるリキシャー(インドの3輪タクシー自動車)、牛と人の混在する混沌とした街の様子はとてもエキサイティングであると同時に、インフラの整備には相当な時間とお金がかかると感じた。


平成16年8月