スピーチ・対談

通産ジャーナル6月号

挑戦する個人が新しい時代を切り拓いていく
―IT革命の進展のなかでの課題

対談:楽天(株)代表取締役社長 三木谷 浩史氏 IT(情報技術)革命の波がわが国のビジネスを大きく揺り動かしている。そのなかで新たな挑戦を選択している経営者がいる。ITがわが国にもたらしている変化、解決すべき課題は何か。著書『勝者の選択』(扶桑社から刊行)のなかでデジタル新産業革命への対応についての政策提言を打ち出した茂木政務次官に、楽天(株)三木谷浩史代表取締役と話し合っていただいた。
電脳消費者が成熟しつつある
茂木 
 三木谷さんが楽天㈱を設立されたのが1997年2月、今から3年前のことですが、その時点で情報通信の分野、ITがここまで発達してくると予想されていましたか。
三木谷 
 インターネットは21世紀の新しい道路になるという予測はしていました。だっ たらそこに商業施設を建てればビジネスになるのではないか、というのが私の立てた仮説です。その仮説が外れたら仕方がないと。
茂木
 その仮説のうえで、どのようなコンセプトをビジネスとして設計し、具体化された のかをお聞かせください。
三木谷
 私どもは、会社設立に先立つ96年の9月からシステムの開発を始めまして、97年2月に会社をつくり、ちょうど3年前の5月からサービスインしました。やっているのは、要するにインターネット上の仮想商店街、いわゆるビジネス・トゥー・コンシューマー、コンシューマー・トゥー・コンシューマーと、それぞれが取引をする場所をつくっています。
場所というのは、楽天のサーバーにログオンして簡単に店を開けるということです。ワープロが使えればインターネット上に店を開けるという、簡単なソリューションを展開しましょうということです。イメージとしては、大きなモールというより、築地の魚市場とか、秋葉原のパソコン街といった感じでしょうか。インターネット上にいろんなお店がいっぱいあって、そこでほとんど何でも買えるという、世界でも有数のインターネット上の市場を展開している会社です。
自分でサーバーを立てると大変なコストがかかるのですけれども、それを、月額5万円の固定料金で、非常にいいシステムが使えて、アドバイスも受けられ、集客までしてくれる、そういう仮想商店街を立ち上げたというイメージでとらえていただければいいと思います。
茂木
 つまり、自分でEコマースをやろうとしたら大変だけれど、5万円で出店できて商売ができると。
三木谷
 そうです。システムを使えて、お客さんも読んできてくれて、アドバイスもしてくれる。楽天はそういうことをやっている会社です。
茂木
 現在、お客さんはどれぐらいいるのですか。
三木谷
 一日350万ページビューぐらい、来客者数は一日50万から100万ぐらいの間だと思います。
茂木
 「楽天」商店街の売り上げはどの程度ですか。
三木谷
 月によって違いますが、一店舗で3千万から5千万円の間、全体で20億ぐらいでしょうか。始めたときは月に約80万円でしたから、毎月大きく伸びているという状況です。
茂木
 今後、Eコマース、電子商取引は大きな成長が見込まれるということがよくいわれていますが、実際に現場で仕事をされている三木谷さんから見ると、どのような感じでしょうか。
三木谷
 いろいろな意味で成熟してきたという実感があります。まず、インターネット上で買い物をする消費者がだいぶ慣れてきたと思います。インターネットは新しいメディアなので、どうしてもそれを使いこなすまでに時間がかかるわけです。ただ、インターネットが出現してからインターネットショッピングが普及するまでのスピードはものすごく速い。現在、ネットワークが普及し、ツールとしてインターネットを使いこなすまでに消費者が成熟するという、この2つの条件が整ってきつつあるので、この分野はこれからさらに急成長をしていくと思います。


デジタル・インフラの競争力
茂木
 スピードという点でいえば、電話が各家庭に10%普及するまでに70年以上かかっているのに対し、インターネットは5年で10%まできた。同じように、インターネットビジネスの普及はかなりのスピードで進展すると思われます。インターネットの世界は、時間的、空間的な制約がありませんし、こういうことからも新しいビジネスチャンスが生まれてきているのでしょうね。
三木谷
 そう思います。現在のリアルな道路とは別の層でもう一本、経済の道路がひかれているということではないですか。
茂木
 日本ではその道路の通行料、インターネットでいいますと、通信料とか接続料が欧米に比べて高いわけですが、これはやはりビジネスを展開されるうえではかなりネックになっていますか。
三木谷
 非常に大きなネックになっています。たとえば、アメリカで1ヵ月つなぎっぱなしにして1500円、日本では144000円ですから、ものすごく高い。
基本のフィロソフィーとして、インターネットは道路なのだから定額でとにかく安く使わせる、このことがマクロ経済的に見ていいのではないか―そういう判断が必要だと思います。
茂木
 日本では料金が高いためにインターネットの利用時間も欧米に比べて格段に少ないわけですが、やはり通信料なり接続料が下がれば、インターネットの使用頻度もそれに比例して増えてくるでしょうね。
三木谷
 そう思います。
茂木
 アメリカでは、80年代にAT&Tを分割し、それぞれの会社の相互乗り入れを行い、本当の意味で電気通信の分野に自由競争を導入しました。ところが、日本の場合は、NTTが民営化したといっても、まだ政府が株をもっていて、NTT東日本と西日本は「相互不可侵条約」を結んでいるといいますか、そういう形になっている。現在のような体制では、自由にだれもが市場に参入でき、競争ができるようになっていない。したがって、それができるように制度面の本格的な改正をしないといけないのではないかと思います。
三木谷
 そうですね。逆にいえば、日本にとっては復活するものすごく大きなチャンスではないでしょうか。リアルな道路をもう一回引き直そうと思うと、大変なコストがかかります。しかし、デジタルの高速道路を各家庭まで引きましょうといったら、電話線一本引いてくればいい。これは、理論的にいうとアメリカよりもコストが安くできるはずです。そうすると、リアルなインフラでは勝てないけど、デジタルなインフラでは日本は勝てる可能性がある。そういう発想の転換があれば日本は一気にインターネット界のリーダーに踊り出る可能性があると思います。
茂木
 日本は国土が狭いために土地が高くて道路も高くつく。こういう産業革命以来の社会資本ということで比べると、社会資本を形成していくうえで不利な立場にあった。けれども、IT時代になると、決して不利ではない。逆に日本のほうにアドバンテージが出てくる。こういう発想が必要ですね。


新しい時代に合った制度の下で競争を
茂木
 ベンチャー企業にとっての課題として、技術、資金、人材という3つの要素が挙げられます。楽天はちょうどこの春に株式を上場されたところで、三木谷さんは資金の問題をはじめとするこれらの課題についてはどのようにお考えですか。
三木谷
 いろんな小さな会社が興ってくることも重要ですが、これからはアメリカのようにベンチャーが一気にメジャーな会社になれる仕組みが必要だと思います。そのためには時代に合っていない今の制度を変えていく必要があります。たとえば具体的に申し上げると、今私たちが一番大きな問題だと思っているのは、既存の大企業にとってはあまり大きな問題ではないことなのですが、株式分割が自由に出来ないことです。
これから新しく一気に成長しようと考えている企業にとって、株式数が少なすぎる。たとえば、楽天の株式数は13000株ですけれど、それに対してアマゾン・ドット・コムは200万株、300万株ある。これでは、普通の人は楽天の株を買いたくても買えません。
今度、分割をするわけですけれども、本当は最初から分割して公開したいのです。しかし、それができないので、上場して分割原資を調達して公開後に分割をする。そこまで個人の方はほとんど参加できません。こういう制度は即刻変えるべきだと思います。資本サイドから個人がどんどん参加できるようになってくれば、国としてもっと支援しようという風潮に変わってくるのではないですか。
茂木
 資本サイドへの個人の参加という課題は重要な点だと思っています。通産省では、産業政策局長の私的諮問機関としてプライベートエクイティーファイナンス事業環境整備研究会をつくり、ご指摘いただいた株式分割制度の問題を含めて、具体的な検討に入っています。
三木谷
 株式分割を自由にするというのは、ピザを4つに切りたいとか、16個に切りたいというだけの話で、だれの懐も痛まない話ですので、これは本当に即刻やるべきではないかと思います。
茂木
 大多数の利益につながるのに、ほんの少数の既得権益のために改革が遅れている分野は日本に多く残っていますね。
三木谷
 既得権益を認めないというか、少なくとも競争はフェアな条件の下でやっていくことを、新しい経営者の基本原理にしなくてはいけないと思います。アメリカには新しい経済には新しい産業が必要で、新しい産業が興るためには新しい器が必要だという基本的な考え方があります。クリントン大統領も、本当の心の底からアメリカの経済を支えているのはアドベンチャーシップ、つまり新しい事業にチャレンジする精神だと思っているし、実際に新しい経済が出てきている。
日本の場合はそうではなく、いかに既存の企業を守るかに力点が置かれている。結局、結果的に見れば、新しい企業が興ってきてどんどんリードしていくほうが、雇用も創造されるし、経済価値も創造される。国の経済全体としてはそれでいい。別に、既存の企業で働いていようが、新しい企業で働いていようが、雇用はあるわけですから、そういう形でどんどんフェアなところでベンチャー会社にもオポチュニティーを与えていかなければ競争原理も働きませんし、国も進化していかないのではないかと思います。


挑戦する個人が変えていく
茂木
 アメリカのニュー・エコノミーの主役はITとバイオテクノロジーですが、これらが新たな芽を生み出すことができたのも、規制緩和をはじめとする制度改革があったからです。わが国が今の閉塞状況を自分の手で変えていくうえでも、これまでの価値観や既得権益とは異なる、思い切った選択が必要だと思います。
三木谷
 そのためにも、社会全体、企業、個人、それぞれにおける意識の変革が必要ですし、実際に少しずつ変わってきていると思います。
茂木
 新たな選択に個人が挑戦していく、そして、そのことを可能にするような制度や環境を整えていくことが政治に求められているということだと考えています。
ところで、三木谷さんは大銀行をやめて自分で新しいビジネスにチャレンジしたわけですけれど、周りを見てみて、若い世代の意識はどんどん変わってきていますか。
三木谷
 本当に変わってきています。今僕は35歳ですけれども、もっと若い層、20代の中堅ぐらいの人たちというのは、大企業にこだわる人もいるのですけれども、一生大企業に勤めていようと思っている人は結構少ないかもしれません。とりあえず大企業に行こうという人は、大企業に行って経験をしたいということであって、いずれは、ベンチャー会社に入るとか、ベンチャー会社をつくるとか、そういうチャレンジをしたいと思っている人がどんどん出てきているように思います。
今後は、中高年層が変わってきて、スキルのある方がどんどんとアドバイザー的な役割でベンチャーに参加していくことができるようになりといいと思います。経験がないなかでやっているよりは、経験のある人がいたほうがいいのは当たり前ですから。
茂木
 三木谷さんは安定した仕事から転身して、実際にビジネスを始めてよかったなという思いをもっておられますか。
三木谷
 ええ、本当によかったです。楽天のユニークなところは、根本のビジネスコンセプトは自分たちで考えたことです。アメリカのものをそのままもってくるのではなく、自分たちの頭で考えた。だから成功してきているのだと思っています。
日本人は優秀だし、クリエーティビティーもある。それをすごくネガティブなパワーで足の引っ張り合いをしている。もっと自由な発想でやっていくことができるのがインターネットの環境なので、若い人を中心にそれにチャレンジしていってほしいです。
茂木
 日本人ももっとオリジナリティーを発揮して、特に若い人には新しいことに挑戦してもらいたいですね。
きょうはありがとうございました。