2000年8月1日
一.「日本独自のIT戦略」の策定
我が国は戦後めざましい経済成長をとげ、自他共に認める経済先進国となった。しかし90年代以降世界経済の中で急速な成長をとげつつあるIT分野においては、我が国の場合、家庭へのIT普及においても、ビジネスへのITの浸透度においても、決して先進国とは言えない状況にある。例えば、日本のインターネット人口普及率は、欧米諸国との比較、アジア諸国との比較において極めて低い水準にある。 21世紀に向けて、日本がこのITの分野でも先進国の地位を獲得するため、(1)低廉かつ高速な情報通信ネットワークの整備等日本がキャッチアップすべき分野、(2)情報家電・モバイル端末等技術の国際競争上の戦略的な分野、(3)ITとものづくりの融合という日本が従来より強みを発揮している分野など、重点分野を明確にしつつメリハリの効いた「日本独自のIT戦略」を1年以内に策定し、着実に実施することが必要である。二.統一ICカードの開発・普及
我が国は、昨年決定されたミレニアムプロジェクトで2003年までに世界最高水準の電子政府の実現を計画している。国民の利便性向上の観点から、全ての政府申請・手続をオンラインで行うべく、迅速な実行が必要である。 このような電子政府のメリットを国民誰もが享受できるようにするためには、統一ICカードの開発・普及につき直ちに検討に着手し世界初のICカード先進国を3年以内に実現すること。このまま放置すれば、施策や省庁・目的別に複数種類のカード、関連機器が流通し、国民の利便性が低下、国民経済上巨額の重複投資が発生する可能性がある。 上記電子政府・ICカードの開発・普及は、国民のニーズに応え機能強化された政府をめざす「行政改革の推進」という成果に直結するものであることを念頭におくべきである。三.電子商取引の発展のための抜本的制度改革
日本は企業間電子商取引市場規模については、米国の約1/2以下、企業消費者間の電子商取引市場規模について1/30以下と、米国に大きく差をつけられた状況にある。 この状況の打破のため、次の制度的対応が必要である。四.国民全体がITを享受できる基盤整備
1. 最先端のITを取り入れて基盤整備を進める都市・エリアを「ビジネスタウンモデル」と位置づけるなどの手法により、線から面への基盤整備を進め、充実した情報通信ネットワークを備えた都市形成を引き続き強力に推進する。五.情報通信関連の公共投資のあり方
光ファイバ網等、情報通信ネットワークの整備を促進するため、民間による投資との役割分担を明確にしつつ、国民生活の観点から必要なものが民間による投資では回収が困難な場合に、戦略的な公共投資を行う必要がある。六.IT分野での国際標準の獲得・知的財産権戦略の推進
モバイル端末、情報家電等の分野は日本の製造技術の強みを活かしつつ日本が国際競争で優位に立つことが可能な分野である。特に今後は、家電製品の相互接続など上記の戦略的分野を中心に、先端的技術開発、デファクトスタンダードの獲得も含めた国際標準の獲得を引き続き国として支援していく必要がある。この際、技術力の優位に加え、世界市場の獲得のためには、関係諸国との合従連衛も含めた国家的な戦略が重要な役割を果たすことを念頭におかなければならない。 また、昨今、IT技術を活用した金融等各分野においてビジネス方法特許の設定が重要な課題となっている。今後、国際競争がますます活発となる中で、特許分野についても我が国としての戦略的対応が引き続き求められる。 さらに、ソフトウェア・コンテンツ・情報関連サービスについては、今後、市場の大きな成長が期待される。知的財産戦略等の適切な設定等適切な振興策を充実させることを通じて、これらの分野の健全な成長を引き続き達成すること。七.アジアを中心とするITの国際展開
日本との経済相互依存関係の高いアジア諸国につき、今後の経済成長の源となるIT分野に関して、協力を行うことは、世界経済はもちろん日本の経済発展のためにも重要である。シンガポール、台湾、香港、韓国等アジア諸国のインターネット普及率は高く、日本が10―20%であるのに対し、例えばシンガポールは40%を超える。こうしたアジアと共通の制度設計を行い、「アジアモデル」とも言えるシステムを構築することは日本にとっても大きなメリットとなる。 かかる観点から貿易関連ドキュメントの作成・保存・送付の電子化を推進する貿易金融の電子化、情報処理技術者の試験制度のノウハウ提供などの内容とする「e-ASIA構想」につき直ちに検討に着手し3年を目途に実現すること。特に、情報処理技術に関する試験制度の下で資格を持つアジア各国の人材の活用に前向きに取り組むこと。八.上記の施策を徹底して推進するために、予算・税・財政投融資等を活用すること。
* 平成十三年度予算 平成十二年度予算では、小渕前首相のリーダーシップの下、情報、高齢化、環境を3つの柱とするミレニアム・プロジェクトが決定され、重点的な予算配分が行われた。採択された電子政府の実現、教育の情報化、IT21プロジェクト(情報通信技術開発)が着実に推進されるとともに、平成十三年度においても、森首相のリーダーシップの下でとりまとめられる日本新生特別枠において、情報通信分野につき、21世紀の日本の成長を支えるような重点的予算配分が行われることを期待するところである。1. 財政赤字再建について
国・地方をあわせた財政赤字が600兆円超(平成12年度見込み645兆円)にのぼる中で、現在の積極型財政を財政再建路線に転換すべしとの意見があります。また、財政再建のために増税や予算の削減、インフレ政策(MITのクルーグマン教授等の提案)などを採用すべきとの提案もなされています。 しかし、米国の財政赤字再建の例を見ても、景気回復を通じた増収を図るのでない限り、国民が許容できる範囲での増税や予算の削減、インフレ政策などを採用しても、財政赤字を根本的に解決することは困難であると私は考えます。従って、我が国においても、まずは景気対策に尽力するとともに、より一層の規制緩和を進めることによって、民間活力を最大限に引き出すことが重要だと考えます。 特に今後成長が期待されるIT分野等については、電気通信事業法、放送法を含む抜本的政策の見直しと規制緩和が必要です。これに関する詳しい内容については、近著(「勝者の選択」p.101~110「・通信と放送は融合していく」「・相互参入、自由競争、フリーアクセス」「・電波をオークションにかける!?」の項)を御参照下さい。2. 憲法改正について
憲法については、もちろん不磨の大典ととらえるべきではなく、あるべき姿についての不断の議論が必要であると考えます。例えば今後、国際社会とのかかわりや環境、個人の権利と公益のバランスといったような観点から憲法に盛り込む事項も必要となっていくでしょうから、その意味では全面的な改正も考えられます。ただし、全面改正を所与としての議論を行うのではなく、一定の時間軸(5年程度)を定めた上で、まずは国民的議論を高め、充実していくことが重要であると考えます。(これに関連して、例えば首相公選制についても皆様のご意見を伺いたいと思います。) 同時に、教育基本法についても見直しの時期に来ていると考えます。憲法の制定とほぼ同時期の昭和22年に制定された教育基本法は、当時の社会状況から万人に対する教育の普及(=量的な充足)を基本理念としてきた訳ですが、今後は個々人の個性を尊重することや、物質的に恵まれた社会においてより一層心の教育に重点を置いていくことや、個人の自立と社会ルールの遵守の重要性を理解させるといったような視点を踏まえて、21世紀にふさわしい教育基本法に改めていく必要があると考えます。3. 経済成長と環境保全との調整
最近、地球規模の環境問題が議論される中で、経済成長を低く抑えても環境を保全するべきであるとの議論が聞かれます。この分野ではNGO活動も大変活発になってきています。一方で、発展途上国においては今後も経済成長が必要だとの議論も聞かれます。このように環境保全と経済成長のどちらを選択するのかといった議論がよくなされてます。 しかし私は、経済成長と環境保全とは必ずしも相反するものではなく、工夫の仕方によっては多くの分野で共存が可能であると考えます。例えば、日本においても「情報の産業化」、「産業の情報化」の如く、「環境の産業化」、「産業の環境化」といった双方向の動きが進展しつつあります。ただし、両者が競合する分野においては一定の調整が必要であり、経済成長を大きく阻害しない限りにおいて3R(リサイクル、リユース、リデュース)の促進、環境規制の強化も許容すべきと考えます。4. 国の権限と住民投票について
最近、原子力発電所の立地や吉野川河口堰の建設等の問題をはじめとして住民投票運動が盛んになってきています。極端な議論では、全ての問題を住民投票で決するべきであるという意見まで聞かれます。 しかし、この問題を考えるに当たっては、まずは国の権限と地方自治体の権限を明確に分けることが必要であると考えます。この権限の明確な仕分けを踏まえて、住民に身近な生活レベルの問題については、地方分権の観点からも全面的に地方自治体に権限等を委ねることが必要であると考えます。 住民投票には反対しませんが、あらゆる問題を住民投票によって決定することについては、例えば安全保障、広域的課題解決、政策間の整合性といった観点もあることから問題もあると考えます。ただし、最近の住民投票による地方の意思表示は、地方から国政に対しての警鐘であり、個々の政治家も真摯に受け止める必要があると思います。(これに関連して、道州制の導入等についての意見も出てきておりますが、皆様のご意見を伺えればと思います。)