スウェーデン市内視察
1.出張概要
日 時 平成16年5月2日~5日 場 所
スウェーデン、フィンランド 目 的
科学技術政策及びIT政策に関する両国関係要人との意見交換等 成 果
スウェーデン、フィンランドともに北欧の人口的には小国だが、科学技術、ITの分野では世界トップクラス。両国において、科学技術協力の更なる進展を図るため、科学技術分野におけるハイレベルの専門家による政策対話を進めることに合意。
IT分野については、フィンランド(あのノキアの本社等が所在する国)との協力関係を更に前進させるとともに、グローバルな課題である情報セキュリティや個人情報保護の問題について協力して対応していくことで合意。また、スウェーデンとも電子政府等の分野で情報交換を密にしていくことで合意。
両国ともそれぞれ1泊というタイトなスケジュールで会談、視察等をあわただしく行ったが、5月に入りようやく春の訪れたさわやかな北欧で実りある出張だった。
2.会談内容
【1】スウェーデン
(1) エストロス教育・科学大臣
エストロス教育・科学大臣との会談:
何と39才の若さ。それでもスウェーデンでは30才の大臣もいて、もう中堅ですとのこと!
- 私より、日本の総合科学技術会議の役割などの科学技術政策決定のメカニズムについて説明。先方から教育・科学大臣の下で科学技術政策を審議している旨紹介があり意見交換。両国の科学技術協力の更なる進展を図るため、ハイレベルの専門家による政策対話を進めることで合意。
- 日本のアカデミー(日本学術会議等の科学者の組織)と政府の総合科学技術会議の関係について説明し、両国のアカデミーの位置付け、政策提言などの役割について意見交換。今後のアカデミーの在り方の検討に活用。
- 本年11月に京都で開催される「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム」への参加を招請。
(2) ルンド国際経済・金融担当大臣
ルンド国際経済・金融担当大臣:
EUの拡大はヨーロッパ経済に必ずプラスに働く。
- 私より日本の景気回復の現状を説明。先方は、日本の景気回復はうれしい驚きである旨発言。
- 両国におけるIT化の進展状況及びIT政策について、電子政府を中心に意見交換し、今後両国間で情報交換を密にしていくことで合意。
- ちょうどEUが15カ国から25カ国へ拡大した直後で、先方より、EU拡大のスウェーデン経済への影響について説明があり、プラス面が大きい点を強調。
(3) エクイスト王立科学アカデミー事務総長
エクイスト王立科学アカデミー事務総長との会談:
ノーベル賞100年の歴史の重みを感じる。
- 私より、日本のアカデミーと総合科学技術会議の関係、日本学術会議の改革の現状について説明し、両国のアカデミーの位置付け、政策提言などの役割について意見交換。
- 王立科学アカデミーが、ノーベル化学賞及び物理学賞の授賞機関として、国際的にも高く評価され続けている理由について問うたところ、先方より、その秘訣として長い歴史と、選考プロセスの質の維持、競争原理の導入などの説明あり。
- 王立科学アカデミーの建物の中に入り、その荘厳さとともにノーベル賞の100年の歴史の重さを感じた。
ストックホルム市庁舎内のノーベル賞受賞式典会場:ここであの田中さんや小柴さんもノーベル賞を受賞しました。
【2】 フィンランド
(1) ハータイネン教育・科学大臣
ハータイネン教育・科学大臣との会談:科学技術政策の意思決定メカニズムは両国で共通点が多い。右のブルーのジャケットの女性が大臣本人!
- 私より、日本の総合科学技術会議の役割などの科学技術政策決定のメカニズムについて説明。先方から首相を議長とする「Science & Technology Policy Council」において科学技術政策を審議している旨紹介があり意見交換。政策決定メカニズムは共通点多い。両国の科学技術協力の更なる進展を図るため、ハイレベルの専門家による政策対話を進めることで合意。
- IT先進国を支えるフィンランドの教育事情、特に、これまでの教育改革のポイントについて問うたところ、カリキュラム編成の自由化、修士以上の学歴の教員の確保など参考になるところ大。
- 本年11月に京都で開催される「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム」への参加を招請。
(2) ルフタネン運輸・通信大臣
ルフタネン運輸通信大臣との会談:またも女性大臣。分厚い資料を持って登場しましたが、とてもチャーミングな人柄の大臣でした。
- 私より、日本のIT化の進捗現状、及びIT政策について説明。先方からは、日本におけるブロードバンドの急速な拡大に感銘を受けるとともにその要因について強い関心がある旨発言。
- IT分野について、フィンランドとの協力関係を更に前進させるとともに、グローバルな課題である情報セキュリティや個人情報保護の問題について協力して対応していくことで合意。
- 私より、税務書類の電子保存を年内に措置したい旨説明した上で、フィンランドにおいて課税に必要な情報を税務当局が収集する制度について聞いたところ、先方より、フィンランドにおいては、政府が個人情報を収集・保有することについて、国民の抵抗感はない旨の説明があり、ある意味、印象的。
- 唯一、通訳を入れた会談でちょっとあわただしかった。
3. 視察内容
【1】スウェーデン
(1)カロリンスカ研究所
カロリンスカ研究所視察:
Prof. Hans Wigzell カロリンスカ研究所医学イノベーションセンター長は研究者でありながら、なかなかのビジネスマインドの持ち主
- 概要 スウェーデン唯一の国立の医学専門大学であり、規模では欧州最大。ノーベル医学・生理学賞の授賞機関としても世界的に有名。先方から両国間の協力研究の概要、ノーベル賞の選考プロセス、研究所と企業との連携についてのプレゼンテーションに続き、所内のゲノム・バイオインフォマティック・センターの研究現場を視察。
- 所感 外部資金の導入に積極的であり、年間予算のうち政府出資は5割を切ってきていること、また、世界トップレベルのライフサイエンスの基礎研究を実施する一方で、研究成果を事業化する新会社をこれまで25社設立するなど、ノーベル賞の授賞機関に安住せず、成果の実用化・事業化にも戦略的に取組んでおり、日本の大学改革に際しても参考になるところ大。国際的な共同研究、人材交流もバイオテクノロジーを中心に活発であり、特に日本との連携を重視している印象。
- 参考(カロリンスカ研究所の概要)
- 1810年に創設され、29学科、教職員数約3,500名、学部学生数約5,000名。年間予算は約34億2500万クローネ(約500億円)。49%が政府からの配分予算。
- アルフレッド・ノーベルの遺言により、本研究所がノーベル医学・生理学賞の選考機関となり、1901年から授与開始。本研究所からの受賞者は通算5名。頭初と比べると、最近は複数(最大3名と規定)の共同受賞者が多くなっている。
【2】フィンランド
(1) テヒターンカトゥ小学校
テヒターンカトゥ小学校訪問:
右端がヘラスブオ校長、左側の小学6年生が4ヶ国語を話すのです
学校給食はセルフサービスで自由席
- 概要 フィンランドはITや科学技術関係の先進国であり、これを支える教育事情を視察するためヘルシンキ市内の公立小学校(生徒数292名、14クラス、先生の総数22名)を訪問。校長による学校紹介、児童との給食の後、コンピューター、音楽、美術、フランス語等の授業を参観。
- 所感 1クラス平均約20名の少人数学級での授業や、小学校2年から外国語を習い始め、6年生で4ヶ国語を学習するなど我が国にない早期の外国語教育、全児童に行き渡ったコンピューターによる授業など、充実した教育環境が印象的。
- 参考(小学校の概要)
- 2年生から、第1外国語として英語/フランス語の学習開始。3年生から、英語授業が週2回へ。4年生からは、更に第2外国語として英語/スウェーデン語授業が開始されるとともに、英語を使ったイマージョン授業が開始。
- 3年生からコンピューター科学、コミュニケーション、芸術、手芸などの選択コース取得可。
- 学校や各先生にカリキュラム編成、授業内容などで相当の自由度が与えられている。私が見た小学4年の英語の授業でも、コンピュータ・ゲームを英単語の修得に取り入れていた。聞くと、先生独自のプログラムだという。
(2) ノキア本社
- 概要 携帯電話の世界トップメーカーであるノキア本社を訪問し、先方からのプレゼンテーションに続き、ノキア社の世界戦略等について意見交換。
- 所感 携帯通信の世界的急拡大を予想し(2015年世界人口の半分の40億人の携帯利用)、また、情報家電やPC等との統合も視野に入れ、異機種間の相互運用の確保等による規格戦略を戦略的・主導的に展開している姿が印象的。
同時にノキア成功の秘訣が、勤勉、R&D重視、消費者重視、社員のモチベーション等ビジネスの基本にあることに納得。
- 参考(ノキア社の概要)
- 年間売上高:約3.8兆円、純利益:約4,700億円。(2003年)
- 携帯電話(売上高の約8割)、マルチメディア、ネットワーク、企業向けソリューションが事業の4本柱。
- 携帯電話の世界シェア:34%(2位モトローラ:12%)(2003年)
(3) オタニエミ・サイエンスパーク
- 概要 フィンランド最大、欧州でも有数のIT研究・開発の集積地域であるオタニエミ・サイエンスパークを視察。
- 所感 IT先進国である同国の旺盛な研究・開発意欲を実感。
- 参考
- ヘルシンキ工科大学の他、多くのベンチャー企業、それを支えるインキュベータが立地。
- 学生:15,000人、研究者:3,000人、職員:9,000人
- 5年前と比べ、相当施設が拡大している印象。
(4) 公共多機能ICカード・システム(FinEID)
公共多機能ICカード(FinEID:FINish Electronic IDentification)の利用視察
- 概要 Finish Electronic Identification の頭文字をとった公共用多機能カードを管理する国民登録センターを視察し、実際にカードを使った実演を見学するとともに、個人情報保護等について意見交換。
- 所感 普及はこれからとしても、自治体、社会保障、銀行、社員証等総計約70種類の官民サービスに対応できる単一認証カードが実用化されつつあることに強い印象。
他方、同カード・システムの下、膨大な個人情報が政府により収集・管理されること、また、同センターにより個人情報が利用者に販売されることを、国民が抵抗なく受け入れていることには率直に言って驚き。
参考
- 1999年導入開始。現在まで約4万枚発行済み。
- EU内では、パスポートとしても利用可能。