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シンガポール訪問概要


8月13日(日)~16日(水)にかけて、シンガポール国際基金の招聘(テマセック・プログラム)でシンガポールを訪問してきました。現地ではLee Hsien Loong首相、Goh Chok Tong上級相(前首相)、George Yeo外務大臣をはじめとする主要閣僚と意見交換を行うと同時に、情報通信開発庁、A*Star、バイオポリス等を訪問、視察してきました。

シンガポールは面積699k㎡(東京23区と同程度)に424万人の人々が住む小国ながら先進国並みの1人あたりGDP(2万7千ドルでASEANでは突出した1位)を持ち、好調な経済(昨年の実質経済成長率は6.0%)を維持している。

外交面では柔軟な全方位外交を展開し、ASEAN等近隣諸国との良好な関係に配慮しつつ、安全保障面で米国の関与も重視している。また最近の東南アジア地域における中国のプレゼンスの高まりに伴い、バランスを取る形でインドとの関係も強化しつつある。

シンガポールの大きな特徴の一つは多民族国家であること。華人系(76%)、マレー系(14%)、インド系(9%)のほか、総人口の1/4は外国人が占め、公用語も英語、マレー語、中国語、タミール語の4ヶ国語を採用している。

以下は現地での主な会談と訪問の内容です。


8月14日(月)

9:45~11:15 情報通信開発庁(IDA)訪問
私がIT担当大臣を務めたということも踏まえて組んでくれた日程だと思うが、シンガポールの情報通信芸術省のもとで情報通信政策の実施を担うのがこのIDA。
IDAではシンガポール政府が先頃まとめた情報通信戦略(Intelligent Nation2015:シンガポールの今後10年の情報通信マスタープラン)について説明を受けた。新しいITプラットフォームの構築等、日本のIT戦略とも共通する点が多いと感じた。

12:00~13:30 Lee Boon Yang情報・通信・芸術大臣との昼食
Lee Boon Yang大臣と会うのは2004年2月に私がIT担当大臣としてシンガポールを訪問した時以来となる。中華料理を食べながらの和やかな会談であったが、午前中IDAで説明を受けたシンガポールのITマスタープランについて議論を深めることが出来た。


Lee Boon Yang 情報・通信・芸術大臣と会食

14:00~15:00 アジア文明博物館見学
シンガポールは独立から41年と歴史が浅い分、自分達のルーツや歴史を大切にしていると感じた。同博物館は2003年オープンの新しい博物館だが、多民族国家を象徴するが如く中国、東南アジア(マレー等)、南アジア(インド・ヒンドゥ)、西アジア(中東・イスラム圏)の4つのコレクションごとのコーナーが設置されている。比較的コンパクトな博物館なので1~2時間あれば全体が見学でき、お勧めのコースである。

18:45~21:15 Tharman Shanmugaratnam教育大臣の選挙区視察

大臣主催の夕食会と思っていたら、大臣の地元選挙区で興味深い光景を視察することが出来た。

まず現地の中流階級の人達が住む典型的なアパートの視察。3LDKで値段は2千万~3千万円位。東京のマンションと比べればやや広めの造りとなっているが、やはり住宅と車の値段は現地でも相当高い。アパート群に隣接するイスラムのモスクを視察した後、Taman Jurong Market & Food Centerにて大臣や地元コミュニティ協議会の代表者を交えて夕食。夕食と言ってもセンターの中にあるファーストフード店から食事をテイクアウトし、中央広場のテーブルで食べるという本当に現地の人達の日常の食事スタイル。チープな中にもなかなか美味。ここでも中華、インドカレー、マレーのサテ、中東の羊料理と多民族社会が表れている。

食事の後、Meet-the-People Sessionを視察。このMeet-the-People Sessionは住民が地元選挙区の議員に対し要望や陳情を行うための機会で、今回は実際にShanmugaratnam大臣が主催するセッションの貴重な現場を視察させてもらった。このセッションは通常週1回開催され、住民は様々な問題を持ち込み、必要があれば議員は住民の代わりに各政府機関等に請願などを行う。持ち込まれる問題には医療や年金問題、公営住宅への入居、許認可に関わる問題、さらには電気・電話代が払えないといった問題まであらゆる問題が含まれる。陳情のある住民は夕方から会場に列を作って順番を待ち、議員のスタッフやボランティア(退職した公務員から現役の大学生まで様々)が対応に当たることとなる。この日も46名の陳情者が訪れていた。最後の陳情処理が終わるまでセッションは続き、時には夜中の12時や午前1時までかかることもあるという。議員はこれらの懇談の中から住民の持つ関心や要望を知り政策にも活かしていく。

このMeet-the-People Sessionは与党・人民行動党(PAP)が貧困層も含め幅広い住民層から支持を得るのに非常に役立っている。人民行動党に所属する国会議員(全国会議員84名中82名と圧倒的多数)は大臣も含め全員が週1回このMeet-the-People Sessionを開催することが義務付けられているという。これだけやれば一つの政党が長期安定政権を維持出来るというのも十分頷けた。


Meet-the-People Session を視察




shanmugaratnam 教育大臣とファーストフードの夕食



8月15日(火)

9:00~10:30 A*Star訪問及びバイオポリス視察
Agency for Science, Technology and Researchはシンガポールの研究開発、技術開発を所管する政府機関だが、その頭文字を取ったA*Starというのはなかなかの命名だと思う。シンガポールは科学技術の分野では、現在バイオに力を入れているとのこと。また、シンガポールの研究開発の特徴として、我が国も沖縄大学院大学でお世話になっているシドニー・ブレナー博士(ノーベル賞受賞者)はじめ、シンガポール人に拘らず世界各国の優秀な研究人材を数多く集めている。
11:30~12:00 Lee Hsien Loong首相との会談

1952年生まれの54歳。年齢も私より3つ上だが、ハーバード大学のケネディースクールでも私の3年先輩にあたる。

本年が日本とシンガポールの外交関係樹立40周年にあたり、6月の天皇皇后両陛下のシンガポール訪問の成功について私から首相に謝意を述べた。

議論は日本の次期政権の話題にまで進み、首相からは日米関係と同時に次期政権はアジア諸国との関係を重視してほしいとの要請があった。

頭脳明晰であり、写真の通り押し出しもよく(声はアメリカの人気ドラマ「24」のデイビッド・パーマー大統領にそっくり!)、今後はASEAN全体のリーダーとして活躍することが期待される。


Lee Hsien Loong 首相と会談. 頭脳明晰、国際派・情報通、ビジュアルも…

12:00~12:30 Goh Chok Tong上級相(前首相)との会談

首相同様、大統領府での面談となったが、大変温かく迎えてもらった。2年前の会談(当時は首相)同様、長期的かつグローバルな視点を持つリーダーであると強く感じた。前回はアジアのIT戦略について話をしたが、今回は主にアジアと中東との対話の促進及び東アジアコミュニティ構想について意見交換した。

本人は固辞しているようだが、彼のような人物こそ国連の次期事務総長に相応しいと思う。


大統領府にて Goh Chok Tong 上級相(前首相)と会談.

12:45~14:00 George Yeo外務大臣との昼食
外務省内のゲストルームにて昼食を取りながら懇談した。ちょうどこの日の朝、日本では小泉総理が靖国神社を参拝したということもあり、旧知のGeorge Yeo外相からは「極めて残念に思う。今回の事態は日本自身にとっても決してプラスにならない」との率直な意見表明があった。アジア外交についてかなり突っ込んだ意見交換をしたが、単に日中・日韓という2国間関係だけでなく、広くアジア諸国が日本に寄せる期待といったものにもしっかり応えられる外交努力が必要と感じた。


外務省にて George Yeo 外務大臣と再会

14:30~15:15 メディアインタビュー
現地及び邦人記者からのインタビューを受けた。予想していた通り、質問は首相や前首相、外相との会談で、小泉首相の靖国参拝についてどのような意見交換があったか、という点に集中した。現地最大の華人系新聞の記者が再三に亘りこの問題について質問してきたのが印象的だった。
16:00~16:30 Lee Yi Shyan貿易産業副大臣との会談
George Yeo外務大臣同様、ハーバードビジネススクールに留学経験を持つ40代前半の副大臣。今回の訪問では何故かハーバード出身者と多く会うことになった。副大臣との間では、両国間の経済関係が極めて緊密であり、今後はすでに締結したEPA(経済連携協定)をさらに見直し、世界のモデルとなるような協定にしたいということで合意した。


今年は日本とシンガポールが外交関係40周年を迎える年であり、実質2日間のタイトな日程だったが、2国間関係はもちろん、東アジアコミュニティ構想の問題など、幅広い有意義な議論を行うことが出来た。今回の訪問で強く感じたのは、シンガポールが人と人とのつながりを通じて外交関係の強化を目指しているということ。また、国際感覚を高め、多民族社会をうまく運営するため様々な工夫をしているということ。今後、二国間関係はもちろん、シンガポールとはマルチの枠組みの中でも連携を強化していきたいと思う。