2005年5月7日
ゴールデンウィークを利用し、5月1日から6日にかけて、情報産業国際競争力強化国会議員5名、委員会メンバーによるミッションの団長として、アジア各国とのIT分野での協力関係の一層の推進について意見交換を行うため東南アジア3ヶ国(ミャンマー、タイ、ベトナム)を訪問しました。
メンバーは、国会議員5名、さらには民間企業、関係団体、経済産業省からの参加者を含め総勢16名の大ミッションでした。
ベトナムでは、キエム副首相、ター郵電大臣と再会し、昨年6月私が大臣当時、覚書に署名したアジアITイニシアティブの人材育成プログラムの進捗状況につき意見交換をし、一層の協力関係推進について意見の一致をみました。
タイ、ミャンマーにおいても、情報政策担当の政府要人と会談し、IT分野における二国間協力及びアジア全体として情報化推進の重要性について意見の一致をみました。また、現地に進出している日系企業、地元企業、大学、ITソフトウェアパークを訪問し、実情を視察してきました。
1. ミャンマー(5月2日)
(1) ゆったりした風景の街ヤンゴン
最初の訪問国はミャンマー。ミャンマーには日本からの直行便がなく、バンコク経由の長旅でした(まぁ、バグダッドへ行くよりは近い!)。5月1日(日)の朝、成田出発、午後バンコクで乗換え。バンコクからの飛行機は、初めて乗るバングラディッシュ航空。あまり耳慣れない航空会社で、大丈夫かな、との思いがよぎる(ミャンマーの日本大使館職員に聞いた話では、非常によく遅れる飛行機なので大使館はヒヤヒヤしていたとのこと)。「最初の難関か・・・」と心配しましたが、遅れることなく無事到着。ひと安心。
(ヤンゴン空港)
ミャンマーという国は最近は日本では馴染みがうすいかもしれません。
1989年に国名を「ミャンマー連邦」に変更するまでは、ビルマと呼ばれていました。日本の約1.8倍の国土に約5,300万人が住んでおり、7割はビルマ族、8割以上が仏教徒です。一人あたりの国民所得は、約180ドル、ASEANの中でも最も低い国のひとつです。公務員の月給が2,000円ぐらいとのことです。
空港からホテルへ向かうバスの中からの風景は、緑が多く、(大きな建物が少なく)道路には小さな露店が並ぶいかにも途上国という感じ。気がつくことはゴミがないことです。他のアジアの国に比べても清潔です。ミャンマーは、日本と同じお箸文化の西端だそうで、文字は全く違うのですが、文法は日本語に近いとのこと。親しみを感じさせます。
バスが首都ヤンゴンの下町に近づくにつれ、道路の両脇に大小様々なパゴダ(仏塔)が目につきます。信仰の厚さを象徴しています。
(ホテル周辺の通りの風景)
首都ヤンゴンは人口500万人、市内で自転車やオートバイに乗っている人はほとんど見ません。車は現地の人々の所得レベルではとても手が届きませんが、オートバイも交通事故の増加を警戒して政府が規制しているとのこと。サンダルを履いた歩行者、街の風景はゆったり見えます。
(2) 要人との会談
アウン・ミンe-National Task Force副委員長
最初に会談したのは、アウン・ミンe-ナショナル タスク フォース副委員長。1939年生まれで、人事院副大臣を兼務。まず私から日本のIT戦略、今後の取り組みを紹介し、アジア各国と人材育成協力を中心にアジア全体のITレベル向上のための協力を推進していく考えを表明。
アウン・ミン副委員長よりは、ミャンマーにおいてもITマスタープランを策定しIT振興を図っており、引き続き日本からの協力を期待する旨の発言。これに対し、私からはIT化を促進するためには、例えばミャンマーの現在の電話普及率1%(日本でいうと昭和20年代?)に対する改善目標数値を設定していくことなどが重要と指摘。わが国のこれまでの経験がミャンマーの発展に貢献できる旨紹介。
(アウン・ミン副委員長との会談)
(3) 視察
ミャンマーICTパーク
(ミャンマーICTパーク)
ミャンマーICTパークは、2002年1月に開所。広大な敷地にIT企業が入居。入居しているMCF(ミャンマーコンピュータ連盟)の幹部と意見交換をした後、わが国が技術協力しているe-ラーニング センターを視察。
e-ラーニング センターでは、ミャンマーの若者たちが研修に一所懸命。IT活用によってどうにか経済発展を図って行きたいという意気込みを実感。
(e-ラーニング センター)
ヤンゴンコンピュータ大学
ミャンマーに2校あるコンピューター大学(4年制)の一つ。現在準備中のJICA人材育成プロジェクトのカウンターパートで、IT分野において演習中心の教育を導入するため、まずは講師のスキルアップを図る予定。
大学院生クラスのコースでは、女性が9割以上。残念ながら(一番残念そうだったのは案内してくれた校長先生!)訪問時には電圧低下により肝心のコンピュータが使用不能になっていたが、暑い中、皆が静かに机に向かいテキストを利用して学習している風景は、昔の日本を思い出させる風景であった。人材育成とともに、電力など基盤インフラ整備の必要性を実感。
(コンピュータ大学教授陣との意見交換)
2. タイ(5月3日)
(1) バンコクの渋滞
タイは昨年夏にIT大臣として訪問し、タクシン首相、スラポンICT大臣(当時)と会談し、e-パスポートやICタグの話で大いに盛り上がりました。本年2月の組閣でスラポン大臣にかわりスウィット新ICT大臣が就任しましたが、新大臣はご病気で直前まで入院されており、代わってカナワット副大臣と面談。また、磁気ディスク装置を製造している富士通タイランドの工場を視察してきました。
バンコクに到着したのは2日(月)の夕刻。ミャンマーのヤンゴンに比較するとバンコクの発展ぶりは目を見張るものがあり、地下鉄やトラムが整備され、多くのビルが建ち並んでいる。アジアの都会につきものの、中心地の朝夕の渋滞は名物にさえなっている状況で、ミッション団も御多分にもれず渋滞に捕まってしまい、約束の時間に遅れないために、途中から数百メートルを歩く破目に。
(バンコクのデパートの前で現地の催し物)
(2) 要人との会談
情報通信技術省 カナワット副大臣
カナワット副大臣は1962年生まれ、42歳の若さ。まず私から、日本はe-Japan 計画の第3フェーズとして、アジアを中心とするIT国際協力、ITのセキュリティ問題、日本・アジア発の国際標準作りに取り組んでいることを説明し、タイでも人気のあるアニメ一休さんに触れつつ、日本発・アジア発のコンテンツを世界に広げていくことの重要性に言及。先方よりタイとしてもアニメに力を入れており、マルチメディアを発展させたいと考えている旨発言。
ASEANの中ではある程度ITが進んでいるタイとは、二国間はもちろんアジア全体の多国間の協力が重要であるとの共通認識にたち、引き続きe-パスポートやICタグなど協力を進めていくことの重要性を確認。
(カナワット情報通信技術省副大臣と)
(3) 視察
富士通タイランド
1988年設立。2002年より、2.5インチの磁気ディスクの製造に特化。近年の売上は好調とのこと。ナノメートル(nm:10億分の1m)の精度が求められる製品で品質の安定性が競争力の源泉であり、半導体工場並みの徹底したクリーンルームの管理を実施している。日本の製造管理技術は海外に出ても超一流と実感。
(幹部との意見交換)
組み立てに使う磁気ヘッドは中国から、プリント基盤はベトナムの富士通工場から持ってきて、精度の求められるクリーンルームの組み立てラインをタイ工場が担当。得意な分野を確立し、集中していることが好業績につながっている。工場に入る女性はもちろんノーメイク、タイ人が汗止めによく使うパウダーも不良品の発生につながってしまう。タイ人の清潔に対する意識の違いを教育により克服し、製品の品質の安定性を確保している。
3. ベトナム(5月4日:ハノイ、5日:ホーチミン)
(1) 政治の中心ハノイ、そして経済の中心ホーチミン歴訪
5月4日(水)早朝ホテルを出発し、バンコクよりハノイへ。アジアITイニシアティブの人材育成プログラムに関する覚書を締結するために訪問したのが昨年6月。以来11ヶ月ぶりのベトナム。今やベトナムの名物と言うしかないオートバイの群れが今回もお出迎えです。
(特別な日ではありません。普段のハノイの風景)
キエム副首相及びター郵電大臣と会談し、あわせてベトナム最大のIT企業、FPTを視察しました。
ハノイに1泊して5日(木)ホーチミンへも訪れ、クアン・チュン・ソフトウェア・シティとホーチミン工科大学を視察、同日深夜(23時30分)帰国の途に着きました。
(ホーチミン総領事館での記念撮影)
(2) 要人との会談
キエム副首相(国家情報通信技術委員会委員長)
(キエム副首相との会談)
ベトナムには副首相が3名おり、キエム副首相は科学技術・教育担当。私からは昨年合意したアジアITイニシアティブのIT人材育成プロジェクトが、副首相の指導の下順調に進展していることを評価、引き続きフォローを期待する旨発言。キエム副首相は、日本の協力に感謝するとともに早急な人材育成の必要性、IT分野での進展を文化交流にも応用していくことの重要性について指摘。e-パスポートなど高度なICT技術を活用する電子政府への取組に関する協力についても期待を表明。
私より、アジアの発展が日本の発展にもつながると考えており、人材育成を重視していること、文化交流に関しては、日本発、アジア発のコンテンツを一緒に開発していきたい旨発言。e-パスポートなど電子政府に関しても、日本政府、民間企業の経験などをもとに協力が可能であることに言及。キエム副首相より、日越協力が引続き進展することを期待、日本がベトナムのみでなくASEANの多くの国に協力していることに感謝との発言。
私よりベトナム政府のわが国の国連常任理事国入りに対する協力に感謝。より頻繁な相互訪問を約し、協力の推進を確認。
(首相府において記念撮影)
(翌日のベトナムの新聞で私達の訪問が大きく報道される)
ター郵電大臣
ター郵電大臣は、1970年以来郵電分野に従事しているこの道のエキスパート。私より昨年ター大臣と署名したアジアITイニシアティブの覚書について、ベトナムにおける人材育成協力がアジア全体のモデルケースとして成功することを期待する旨発言。ター大臣より、本件への日本の協力に感謝との発言。このプロジェクトの早期実現の重要性について一致。
ター大臣より、ベトナムは今後5年間で行政の電子化を進めていく計画で、IDカードへのICチップ導入などを検討しており、日本の協力への期待を表明。私より日本政府の経験、企業の技術などを利用し、協力の進展が期待される旨発言。
(ター郵電大臣との昼食会)
(3) 視察
FPT(ベトナム系民間企業でベトナムソフトウェア協会の会長会社)
1988年設立でベトナム最大のIT企業。FPT全体の売り上げが04年は3億2400万ドル、従業員は3,000名以上。1999年設立の子会社FPTソフトウェアは、毎年100%前後の売り上げの伸び。品質管理に力を入れており、日本からのソフト開発受託の拡大に向け日本語の理解できる技術者の育成にも取り組んでいる。技術力とコスト競争力からすれば、今後の可能性は極めて高いと思う。
清潔で整理されたオフィスで、若者が多く、発展している企業の勢いを感じさせる企業であった。
(日本語で歓迎してくれました)
(若い技術者からも話を聞きました)
クアン・チュン・ソフトウェア・シティ
南ベトナム最大のハイテクパークでソフトウェア専用パークとしては唯一。日系ソフトウェア開発ベンチャー企業も進出し始めており、順調に発展。
空港までは15~20分、広大な敷地があり、所得税の優遇策(4年間無税、以後10年目まで半額の優遇税制)、行政手続きのワン ストップ措置などのインセンティブもある。入居している日系企業は3年間かけて日本語教育を実施し、今年の売上増の陰に地道な努力が存在。
(日系を含む現地のソフトウェア企業と意見交換)
(現地企業のオフィス見学)
ホーチミン工科大学
1957年の設立で工学系エンジニアリング関係が歴史的に強く、11学部のうち情報通信技術関係は、情報技術、エレクトロニクスの2学部。
以前は仏、米などからの協力の申し入れが多かったが、最近は日本の大学や企業からの協力の申し入れが増加している、とのこと。ここに来て積極的な国が韓国。50名以上の教員候補生が韓国政府の支援を受け、無料で韓国に留学しているとのことであった。
昨年訪問したハノイ工科大学と並ぶ一流大学で、視察した実験室のレベルはまだまだだが、ここの卒業生がベトナム社会を支えるエリートとなっていくのだろう。日本がこうした将来のベトナムを担う人材の育成にどこまでコミット出来るか。IT分野に限らず人材育成での協力は、将来の日越関係の強化にも必ずつながっていくと感じる。
(ミッションを歓迎するバナー)
(ファム・チュン・ハイ学長と意見交換)
4. 視察を終えて
今回はゴールデンウィーク期間の5月1日~6日に4泊6日(1泊は機中泊)で3カ国4都市を廻るという強行スケジュールでしたが、ASEAN10カ国の中で先頭グループのタイ、中進国のベトナム、そしてまだまだ発展途上のミャンマーという、それぞれ経済の発展度合いもIT普及状況も異なる国を視察することが出来ました。
IT化の進展は3カ国で大きく異なっていますが、ITを今後の経済発展の核としていく、そしてそのためにもIT人材の育成が鍵になるという点は3つの国に共通していました。私が大臣時代に推進してきた「アジアITイニシアティブ」は正しい方向であると改めて感じました。
もう一つ、訪問した3カ国において、日本への期待が高い一方で、最近は中国経済の進出ぶりに目覚しいものがあることです。このままでは日本のプレゼンスが薄れてしまうという危機感を持ちました。IT分野でアジア全体のレベルアップを図っていくという「アジアITイニシアティブ」はもちろんですが、より広い政治・経済分野でのアジアの統合と発展を目指す「アジア共同体構想」を日本が提示し、各国への協力も積極的に進めていく時期にきています。