新しい局面を迎える政治・政策

2012年6月6日

2012年6月6日参考資料
2012年6月6日

 おはようございます。早朝から政経セミナーにお集まり頂き、ありがとうございます。
今日は、政治的に絶妙なタイミングになりました。今日、与野党幹事長会談が開かれますが、国会は6月21日の会期末に向けて、まさに日本の政治がどちらの方向に行くのか、大きなターニングポイントになるのではないかと思っています。
1時間の中で、お手元にある資料も使いながら、国政全体の状況をお話させて頂きます。


    1.直近の政治状況について

    今週月曜日の内閣改造で政局も再スタートしたわけですが、内閣改造について若干触れてみると、今年の1月にも改造をしたのに半年も経たないでまた改造、ということで、少なくとも総理が強調していた「適材適所」、そして「最強の内閣」というのは明らかに否定をされた。
    交代した閣僚5人ですが、国民新党枠の1名を除くと、田中大臣、前田大臣という2人の問責閣僚、さらに鹿野農水大臣、小川法務大臣という今後どこかでは問責になる「問責予備軍」、こういった人を替えたことは半歩前進だと思っています。
    今回の内閣改造でやはり我々が注目したのは、誰が防衛大臣になるのか。自らを「ど素人だ」と言った一川さん、その後、家庭内の防衛については極めて立派ですが、国の防衛については何も知らない田中直紀さんが防衛大臣になった。我々も民主党内を見て適任者が見当たらなかった。北澤俊美元防衛大臣、この人は経験がありますが、輿石幹事長と極めて関係が悪いので北澤さんはない。そうなってくると、まさか我が党から石破さんを引き抜くわけないから、防衛大臣になれる人がいないのではないかと思っていたら、民間の森本敏教授を使った。
    森本先生は私もよく存じ上げています。自衛隊から外務省に行き、テレビ等々でも活躍をしていて、防衛問題・安全保障問題の論客であることは間違いない。ただ、本当に国の安全保障、国防の責任者が国民の負託を受けていない民間の方でいいのか、という疑念は残ります。例えば経済産業や文部科学という分野であれば、民間の専門家が大臣になっても大きな問題はない。小泉内閣でも5人の民間閣僚を使いました。しかし、防衛の責任者となると、民間人を置くこと自体どうなのか。これから国会でも議論になっていくと思います。
    先週末には、小沢さんと野田総理の2回目の会談を、輿石さんを交えてやることになりました。これは野田・輿石会談で、輿石さんから「もう1回、小沢さんと会ってくれ」という要請を受けたという形ですが、野田さんは「消費税法案をやらせてほしい」という話をし、一方で小沢さんは「消費税については反対だ、マニフェストで約束したことをもっとしっかりやれ」という話で、結果は誰が見てもわかっていた。
    ちなみに、民主党で最初にマニフェストを破ったのは小沢さんです。民主党はマニフェストで、暫定税率を下げてガソリンの値段を安くすると約束していましたが、これを幹事長のツルの一声で“やらない”と決めたのは小沢さんです。消費税についても、細川内閣の国民福祉税など「消費税をやらなくてはならない」とずっと言ってきたのも小沢さんです。小沢さん、政策的に以前と相当変わっていますが、少なくとも今のスタンスは消費税に反対ということだから、野田さんと絶対にかみ合わない。平行線で終わる、というのはわかっていたのですが、会談は儀式としてやる。恐らく総理からすると「自民党との政策協議に舵を切らさせてもらいます」という最後通牒の場になったのではないかと思います。
    組閣をした月曜の記者会見を見ても、野田さんは「会期末が6月21日だから、そこまでには少なくとも衆議院できちんと採決をする。そこまで持っていきたい。改めて税と社会保障の一体改革に政治生命をかける」ということを強調したわけですが、問題は、総理がそう言っても、民主党の執行部がなかなか思うように動かないことです。輿石さんや樽床さん、こちらから見ると、採決をすると民主党内が賛成派、反対派で分裂をしてしまうので、採決の引き延ばしを図っているようにしか見えない。
    実は、昨日の3党幹事長会談に臨む前、我が党と公明党の幹部は、どういう話をするか打ち合わせをしていました。別に15日の何時に合意しろとか、21日の何時に採決しろとかではなく、この会期中にきちんと採決をするために与野党協議に入る、という提案だったら受けようということでしたが、輿石さんは全くそのことを言わない。実際、与野党協議が始まれば、もうお互いの主張の違いは判っていて、どこまでの部分を与党がのむか、我々もどこまで譲るか、決めようと思えばそんなに時間をかけずにできる。
    ところが、今やっている定数是正や選挙制度、一票の格差の問題も、同じようなことを何ヶ月もやっているわけです。民主党の樽床幹事長代行が責任者ですが、彼の場合も、解散・総選挙になったら大阪で維新の会と関係が極めて悪いため確実に落選してしまう。一票の格差の問題を決着つけないで、選挙がやりにくい状況をつくっているようにしか見えない。
    税と社会保障の与野党協議も、まさに「第2の一票の格差」の様にされてしまうのではないか、という懸念を持っています。ですから我々は、お尻を切ってくれればきちんと交渉に臨みます、というスタンスで、今日改めて与野党の幹事長会談に臨む。
    実は私も昨日内々に、官邸の方には「もう早く交渉に入ろうよ。そのためには、お尻を切ると言ってくれれば入れるからそうしてほしい」「いや、言ってるはずなんだけど」「民主党からいつになっても言って来ないんだ」という話のやりとりがありました。さすがに今日の幹事長会談では、そろそろ与野党協議に入るということで、渋々、輿石さんも日程をのんでくるのではないかと思っています。
    この後、社会保障の話はゆっくりしたいと思いますが、税についてはそれほど違いというのはありません。ただ、例えば低所得者に対する措置をどうするか。1つは、給付付きの税額控除、もう1つは軽減税率を導入する。どちらもメリット・デメリットがあります。
    私は、今国会での合意がなされるとしても、税の細かい制度設計一つ一つはやはり年末の税制改正でやらざるを得ないだろうと思っています。住宅の対策はどうするのか、石油にかかるタックス・オン・タックスの問題はどうするか、自動車諸税、医療サービスの問題など、今回の法案でも30項目ぐらいが今後の検討になっている。恐らく、今片付けるのではなく年末の税制改正でやっていくということになると、今回は税そのものについて、税率引き上げを一段階でやるか、二段階でやるか、その程度の話で、それ程大きな異論は出ないと思っています。
    一方で、社会保障については自民党と民主党の間で相当隔たりがある。さらに言うと、民主党の社会保障政策は全体像がはっきりしない。後期高齢者医療制度を廃止すると言ったが、法案がいつ出てくるかわからない。マニフェストで一番の看板だった最低保障年金、国民年金も含めた年金の一元化、この法案は今回ではなく来年になるという。一番重要なところは全部先送りという形で、税と社会保障の一体改革と言いますが全く一体にはなっていない。

    後でお話をしますが、我々の方で逆に「社会保障制度改革基本法」を提案し、これがきちんとのめるのか、のめないのか。のめるなら我々も消費税は必要だと思うから賛成します、のめないなら財源の使い途に対する考えが違うから賛成できない、というスタンスでやっていくことになる。

     

    2.財政再建と景気対策のバランス

    (1)債務増加の原因
    消費税の引き上げがなぜ必要か。我々は、一昨年の参議院選挙でも、正直にこのことを公約しました。民主党は、政権につくまでは「無駄の削減で10兆でも20兆でも出る。そのお金で子ども手当26000円や、高速道路の無料化、こういったことは全部できます」と言ってきたわけだが、結果的にはできなかった。思った以上に財政状況が厳しい、ということで、政権をとってから、途中で消費税増税に舵を切った。最近の国会答弁でも、なぜ消費税が今必要か、ということについて野田総理も4つの理由を挙げています。
    1つが、少子高齢化の進展に伴う社会保障費の増大。2つ目が、景気の低迷、税収の落ち込みの問題。3つ目が、東日本大震災の影響。4つ目に、欧州の財政危機、金融危機の波及問題。
    それぞれ理由でありますが、民主党は一昨年の10月時点から、消費税について本部を立ち上げて検討を始めている。一昨年の10月というと、東日本大震災は去年の3月11日だからまだ起こっていない。欧州においても、確かにギリシャの財政危機というのは一昨年からありましたが、欧州危機と認識するようになったのは昨年の秋だから、それも後のことになる。

    やはり大きな理由は、税収の落ち込みと社会保障費の増大です。お手元に配布した参考資料の1ページ目をご覧下さい。バブルが崩壊した平成2年から平成24年まで、この20数年間で何が要因で国債残高が増加をしているかを見たものです。国債残高の増加額、全体で530兆円、純増分が422兆ということですが、その要因としては右側の税収の落ち込みが一番大きくて、236兆円の落ち込み、純増分全体の56%ということになります。その次に大きいのが、左側にある社会保障関係費の増加で182兆円、純増分の43%。「公共事業をものすごくやったことによって財政が悪くなったんだ」という批判を民主党がよくしていましたが、公共事業関係費は59兆円で、社会保障関係費と比べると3分の1。しかもどちらかというと、前半の部分、平成11年ぐらいまでに大体集中をしている。特にここ10年ぐらいの落ち込みということで言うと、一番大きいのは税収で、2番目に大きなのが社会保障関係費ということになってくる。

     

    (2)日本経済の現状と増税の影響
    日本経済の現状ですが、次ページ【図2】をご覧下さい。リーマンショック前後、3年間ぐらいの「日本の名目GDPの推移」です。サブプライム問題が2008年初めに起こります。2008年9月にリーマンショック。当時、私は金融担当大臣で、9月15日は徹夜をしたのを覚えています。日本だけではなく、世界的に景気がガタンと落ち込み、そこからまだ回復をしていない。
    民主党政権ができて、この3年弱の間を見ると、年平均のGDPが475兆円です。我々の時代に導入したエコカー減税・エコカー補助金、これの押し上げ効果は若干ありましたが、それでも475兆円。リーマンショック前は、図の左側のように年平均が508兆円だから、経済」の落ち込みが30兆ぐらいある。民主党政権の場合は、最初からパイの分配ということを考えるのですが、分配の前にまずGDPそのもの、パイそのものをいかに大きくするか、という政策をきちんととっていかなければならないと思います。
    さらに【図3】をご覧下さい。これは仮に今の法案が通って、スケジュール通りに2014年、2015年と消費税が引き上げられるという前提でのものですが、この中で、経済見通しを比較的慎重に見たシナリオでも、経済が比較的うまくいくという成長戦略シナリオでも、消費税を増税しない場合より増税した方が、少なくとも導入から3年ぐらいのGDPは下がってくる。
    増税前の駆け込み需要もあり、その反動も含めて、当初の3年ぐらいは、やはり需要の落ち込みが発生する。図の下にあるように0.6兆円とか2.1兆円、こういう額になってくる。
    ただこれを分析してみると、今後の状況を楽観的に見ている。例えば、総理が本会議でも答弁した“非ケインズ効果”。財政や社会保障が安定することにより、国民が安心して消費をするという効果を「非ケインズ効果」と呼びますが、先般私が国会質問に立たせて頂いた際、「どれぐらい見ているのか」と聞くと、閣僚は誰も答えられなかった。でも、モデルを分析してみると、これを相当大きく見ている。ゲタを履いてもこれだけの落ち込み。恐らく実際にはもう少し大きな落ち込みが出てくるのではないか。
    そうなると消費税を引き上げるにしても、第一のハードルとして、リーマンショック以前の日本経済の状態に戻す。この30兆円のギャップをどうするかという課題。もう1つは、消費税の引き上げに伴う経済のさらなる落ち込みにどう対応するか、こういった問題に応えていかなければならない。

    財務省は、消費税を引き上げたらすぐに財政再建を始めたい、借金返しを始めたい、そういう発想ですが、それをやったら、やはり日本経済のダメージはあまりにも大きくなる。少なくとも、消費税の引き上げと並行して、数年間は景気対策、需要創出、成長戦略、こういったことに重点を置いた財政運営が必要ではないか。これがまさに今の自民党の主張です。

     

    (3)事前防災・国土強靭化

    どの様なことをやるか。大きく分けると2つあります。落ち込んだGDP30兆円を3年間で埋める。年間10兆円。そのうちの半分ぐらいを公需でやる。それを呼び水にして民需も拡大する。つまり年間5兆円の国費を投入することになる。その半分2.5兆円は、いわゆる防災や減災で災害に強い国土をつくる。もう半分の2.5兆円、消費税にすると1%分ぐらいですが、これについては技術開発や人材への投資など、成長戦略の方に振り向けていく。ざっくりですが、これが我が党の今の考え方です。
    その中の1つが【図4】の国土強靱化基本法。これは一昨日、国会に自民党が議員立法で提出した基本法になるわけですが、昨年3月11日に東日本大震災が起こり、そこからの復興も遅れていて、これを相当スピードアップをしていかなければならない。しかし同時に、今後は首都直下型地震、東海・東南海・南海地震の発生に対して、事が起こってからバタバタと対応するのではなく、事前にやれることをやっておきましょう、という話です。
    今の政府はどう考えても、事が起こってからしか対応できない。交差点で言うと、交通事故が起きてから信号機をつける、という発想です。首都直下型地震、政府の予測でもこれから30年以内に7割と言われています。東大の地震研は、これから4年以内に7割という確率で起こると言っています。今回の東日本大震災の直接のダメージが資本ストックで 17兆円。阪神・淡路の大体倍でしたが、首都直下型の地震、マグニチュード7.3クラスのものが起こると、被害は112兆円、一桁上になるとも言われています。
    東京の防災の問題もあるが、同時に首都圏には、国会、霞が関の行政官庁、企業の本社機能の半分、データセンターで言うと7割以上が集中していて、まさに日本全体の中枢機能です。この首都機能のバックアップ体制をどうするかということも考えていかなければ なりませんが、平成24年度、今年の予算で、首都機能のバックアップの予算は幾らぐらいとっているかというと、たった1000万円です。先日総理は、今年の予算は調査費でそれ  以降のことは後で考えると言っていました。100年後、200年後のことなら後で考えてくれても結構ですが、4年以内に起こるかもしれないという時に1000万円しかつけないで、その後のことは後で考える、こういう発想ではやはり危機感が足りないのではないかと思います。
    自民党の国土強靱化基本法では、1番目の基本理念で一極集中、国土の脆弱性の是正という観点から、多極分散型の国土をつくっていくなど様々なことを書いてあります。2番目の基本計画は、この法律が通ったらこれからつくっていくもの。これは国でもつくります。広域の地方、例えば首都圏、中部圏、関西圏などの広域でもつくり、さらには都道府県単位、市町村単位のものを積み上げていく。こういった中で、実際の予算規模はどれぐらいになっていくかということが決まるわけですが、先程申し上げたように当面3年間ぐらいで言うと、毎年5兆円、合計15兆くらいの追加投資が必要だと思っています。
    こういう話をすると、また自民党は公共事業に先祖返りかという批判もある。この間、朝日新聞で、自民党は「人からコンクリートへ」という記事がありましたが、コンクリートも必要なところはやります。例えば、一旦災害が起こると、人命では72時間が勝負になってくる。その間にレスキュー隊や自衛隊が入り、人命救助や緊急支援を行っていく。機材も持って被災地に入ろうと思うとパラシュートで降りていくわけにはいかない。やはり道路が必要です。そういった本当に必要な道路はきちんとつくっていく。また昨年の東日本大震災では、つながらない携帯電話が問題になった。家族が離れ離れで安否の確認がとれない、緊急の通報ができないという問題。情報通信ネットワークも災害に強いものにしていくことが必要です。
    さらにソフトの分野で言うと、第2次世界大戦が終わり、GHQが日本の財閥など様々なものを解体した。その中の1つが、戦前にあった隣保班です。もう1回、隣組、このコミュニティーの力を強くしていく必要があるのではないかと思っています。「社会」の 成り立ちというのが、西洋と日本では異なる。ルソーの『民約論』を中江兆民が訳した時に、ソサエティーという概念を表す日本がなくて「社会」という言葉を造った。ヨーロッパにある「社会」という概念がなかったから、社=神社、これで会う、「社で会う」という言葉で「社会」という言葉を造りました。日本の「社会」というのは、西洋の階級社会ではなく、むしろ地域コミュニティー、神社が中心にあって、そこに住んでいる人達のコミュニティーを「社会」としてイメージした。まさにそういったものが、今弱なっている。これをもう一度作り直して、何か災害があった時にお互いに助け合う、こういったソフトの対応も必要だと思います。

    医療、エネルギーの供給体制をどうしていくかという問題もあります。極めてソフトなコミュニティーまで含めて、ハードからソフトを組み合わせ、まさに強くてしなやかな国土をつくっていく、こういった観点から、国土の強靱化といったことを政策の柱として進めていきたいと思っています。

     

    (4)成長戦略、将来への投資

    もう1つが、やはり技術開発です。【図5】「日本の主要先端製品・部材の市場規模と世界シェア」をご覧下さい。全部をこの図に入れるとバルーンが見えなくなってしまうので、ものづくり産業を中心に幾つかピックアップしています。縦軸が世界市場規模、上に行くほど市場規模が大きい。横軸が日本企業の世界シェアのパーセーンテージです。確かに、現状でいっても日本におけるリーディングインダストリーは自動車と電子機器、電子部品といったエレクトロニック産業になってくるのは間違いないと思いますが、右の方をご覧頂くと、そこまで市場規模は大きくないが、日本が世界で圧倒的なシェアを持っている分野が出てきます。デジカメがその典型です。キヤノンやニコン、圧倒的な力を持っている。これは、デジカメの製造工程の中のCCDという画素を細かくする技術、ここをブラックボックスにして完全に押さえているから強いわけです。そういった日本にとって虎の子の技術をどこまで開発できるかで、世界的な競争は決まってくる。
    これからは多くの産業で、部品から組み立てまで日本国内で全部やるという時代ではなくなってくる。一部は日本でつくり、一部は韓国、中国でつくって、最終的なアッセンブリー、組み立てはベトナムでやる、こういうビジネスモデルが出てきます。その中で、一番キーになるような素材や技術やソフトをどこまで日本が握れるか。そこで日本の競争力、これから10年後、20年後は決まってくると思います。恐らく研究開発の投資促進税制は相当やっていかなければいけない。そういった分野も含めて、今の政府のやり方は明らかに「短期のバラマキ」です。ローマ帝国の末期で言うパンとサーカスの世界です。そうではなくて、やはり「将来への投資」、技術、人材、ソフト、知的所有権、こういったものに対する投資をきちんと進めていかなくてはいけないと考えます。

     

    3.円高・デフレからの脱却
    (1)日銀の政策決定の問題点
    消費税増税は、経済対策、景気対策とセットでやっていかなければいけない。もう1つ、有効需要をつくるのと同時に、金融政策も私は大切だと思っていて、今年1月22日の自民党大会でも、日本銀行のことを相当言わせてもらいました。日銀が何しろインフレになるのが嫌だ、自分たちが責任を取らされるのが嫌だ、という腰の引けた姿勢で、白川総裁も国内と海外では言っていることが全く違う。こういったところからやはり脱却をしていかなくてはいけない、ということで国会でも色々議論しました。日銀は2月14日の政策決定 会合で、それまでの「物価安定の理解」という誰も理解できない言葉から、ようやく「物価安定の目途1%」という言葉に変えました。半歩前進だと思います。
    【図6】をご覧下さい。これは、今年の1月、2月、3月の株価、為替をとっています。直近で言うと、ヨーロッパの財政状況の悪化から株価も為替も極めて厳しいという状況にありますが、2月14日の日銀の政策決定会合以来、株価も一時的には相当よくなった。また、為替の方も、円高の是正が進んだ。「物価安定の目途1%」、少なくとも短期的には効果があった。
    ただ、日銀の決定、日本語では「物価安定の目途1%」ですが、英訳を見てみるとアメリカのFRBと一緒で「ゴール」と書いてある。イギリスは「ターゲット」で、確実に時間を区切り、それを達成しなければならない。同じ「目標」でも、「ゴール」の方が少し緩やかなところがある。中長期の「目標」ということになってきますが、少なくとも「ゴール」といったら、やはりこれは「目標」です。「目途」というのは、英語で言うと「ヤードスティック」です。日本語と英語では全く違う言葉を使う。英語で「ゴール」と言うならば、日本語でもきちんと「目標」にした方がいい。

     

    (2)「物価目標2%」に向けての金融緩和
    そこで各国の「目標」はどうなっているのか。7ページ目をご覧頂くと、日本、アメリカ、ユーロ圏、イギリス、カナダととってあります。ユーロ圏だけ「定義」ですが、他の国は「目標」、「ゴール」「ターゲット」という形で、ほとんど2%です。カナダは2%プラスマイナス1%。ユーロ圏は2%未満ですけれども、下の注にあるように「below but close to 2%」ということで、2%以下だが極めて2%に近いところという形です。
    日本もやはり、これだけ国際金融がつながっているわけだから、「ずっとデフレだったから1%でいいんだ」「1%も大変なんだ」ということではなく、世界水準に合わせて2%にしていくことが必要だと思うし、なかなか日銀に単独でやらせようと思ってもできないので、政府と日銀が協定、アコードを結び、きちんと物価目標を定め、そのもとで金融緩和も進めることが必要です。もちろん金融政策だけで全部ができるわけではありませんので、先程言ったような有効需要をつくる、国土の強靱化、成長戦略、こういったものを同時にとっていくことが大切です。

     

    4.社会保障政策の抜本的見直し

    (1)自民党の基本的考え方

    消費税に絡む大きなテーマ「社会保障」に入りたいと思います。
    今回、自民党が政権についたら社会保障はどうしていくか、という考え方をまとめ、それに沿って「社会保障制度改革基本法」をいつでも国会に提出する準備もできています。恐らく今週ぐらいから始まる与野党協議では、この基本法を提示して、これがきちんと合意できるならば消費税については賛成します、合意できないならだめだ、という交渉になる。
    【図8】に自民党の基本的な考え方が5つ書いてあります。最初が、額に汗して働き、税金や社会保険料などをまじめに納める人々が報われること。2番目に「自助」「自立」を第一とし、「共助」「公助」を組み合わせて、安易なバラマキの道は排する。3番目は、家族による「自助」、自発的な意志に基づく「共助」を大切にするということで、お笑いの次長課長のように、5000万円も収入があるのに家族による「自助」をしないで、お母さんが生活保護をもらっている、こんなことはとんでもないということです。4つ目に、我が国の社会保障は、社会保険制度を引き続き基本として、必要な是正を行う。最後に、その社会保険料で賄いきれない給付の公的負担の財源については、消費税を中心にする。これが我々の考え方です。

    先日、野田さんに「この考え方、賛同できますか。もし違うところがあるなら、どの部分がどう違うか答えてください」と国会で質問したところ、「全く違和感はありません。強いて言えば、家族の力が弱くなっているからそれを強化しなくちゃならない」という答えでした。家族の力はここにもまさにそう書いてある。考えには違和感はないということですが、民主党の場合、政策レベルになると180度違ってきてしまう。

     

    (2)最低保障年金、年金一元化の問題点
    例えば最低保障年金、国民年金を含めた年金の一元化。マニフェストに「全てのお年寄りに最低保障年金7万円をお配りします」と書いてある。しかし、今7万円もらっている人は1人もいません。いつから始まるんだ、マニフェストは4年間で実施すると言うから4年以内に始まるんだろう。ところが、よくよく聞いてみると、満額7万円もらえるようになるのは、何と40年後、65歳の人が105歳になるともらえるようになる。いくらなんでもそれは嘘をついたということになるのではないか。この年金一元化の問題、我々も被用者年金、つまり共済年金、厚生年金は一元化するということを5年前から言ってきている。その時は、被用者年金の一元化に民主党は反対だった。ところが今回政府から出てきている法案は、まずは被用者年金の一元化。来年以降、国民年金も含めた一元化ということだが、ここで問題なのは、保険料を納めた人も納めない人も、最低保障年金7万円をもらえるということ。
    まさに基本法の1番目の額に汗して働き、税金や社会保険料などをまじめに納める人が報われることではなくて、まじめに納めない人が報われることになる。4番目には、我が国の社会保障は、社会保険制度を引き続き基本として必要な是正を行うと書いてありますが、民主党の年金改革は、まず税の投入がすぐ来てしまうという形で、年金の一元化は明らかに我々の考えとは反します。しかも、これらの実現には消費税にして7.1%もの莫大な財源が必要になってくる。

    この部分、恐らく最終的には、民主党が一旦旗を降ろし、少なくとも白紙に戻す。その代わり我々も助け船を出して、私が先日提案したように、将来のことについては今決めるのではなく、「社会保障制度改革国民会議」をつくり、そこで議論して1年以内に結論を出す。なぜ1年以内かというと、今のスケジュールだと、来年10月ぐらいのタイミングで消費税の引き上げの最終的な決定をする。引き上げ自体は再来年ですが、来年の秋に引き上げるか否かを決定するということだから、その前には年金、医療、介護、子育て支援など社会保障をどうするか、決着をつけなければならない。まさにこれ、ある意味では助け船です。全部否定して土下座しろと言っているわけではない。一旦は白紙にして、どうしても持ち出したいなら国民会議の場で持ち出しなさい、という話をしているわけです。恐らくここの部分が、与野党協議では一番大きなテーマになってくると思っています。

     

    (3)生活保護の見直し:「手当てより仕事」

    もう1つ、社会保障について我々が問題指摘しているのは、生活保護の問題です。民主党政権になって生活保護は圧倒的に増えている。5年前の平成20年の段階では、生活保護受給者は159万人でしたが、直近の数字では210万人です。50万人増えている。それにかかる予算も、5年前は2兆7000億円が、今は1兆円増の3兆7000億円です。
    生活保護、3つの特徴がある。その1つが【図9】を見てわかるように、地域別のばらつきが大きいということです。都道府県別、相当ばらつきがあり、一番少ないのが富山県で、生活保護が大体1000軒に3軒です。本当に困っている人だけが生活保護の申請をしている状態だと思います。それに対して一番多いのが大阪で、100軒に3軒。富山と比べると10倍ということになります。さらに右側の市単位だと、橋下市長の大阪市が圧倒的に多く、浜松に比べると5倍以上です。20軒に1軒以上が生活保護。大阪市内の西成区、旧あいりん地区だと、生活保護が5軒に1軒です。富山にいると生活保護というのは本当に最後の手段で、仕事があるならまず何でもやって、どうしてもそれで生活していけない人が生活保護を申請する。ところが大阪の西成区は「もらわなくちゃ損、うまく申請すればもらえる」という感じになっている。
    もう1つの特徴ですが、10ページ目をご覧下さい。平成22年のデータなので186万人ですが、何しろ200万人近い受給者の中で80万人は20歳から64歳の現役世代です。そこの中で、曲がりなりにも就労している人は14万人しかいない。国が用意している就労支援プログラムに入っている人も7万人。健康なのに、どこも悪くないのに、全く仕事をしていない人が21万人いる。一番下の就労困難というのも、厚生労働省の定義だから、全く仕事ができないかというと、軽労働や短時間労働等はできる部分はあると思うが、それは別にしても、就労が見込めるのは28万人。この人達は間違いなく仕事ができるので、まず仕事をしてもらう。生活保護費を与えることよりも仕事を与える。大型コンピューターの設計がしたいとか、パイロットになりたいとか言っていると仕事はありませんが、えり好みをしなければ何でもある。そういう仕事に就いてもらい生活保護から脱却すると、それだけで毎年5000億近く国の予算が浮くことになる。
    この現役世代で生活保護をもらっている人が特に多いのが、地域でいっても生活保護が多いところです。全体の比率も多いが、現役でもらっている人も多い。こういった問題を一掃する必要があるのではないか。
    もう1つ、生活保護の3番目の特徴は、やはり医療費が半分を占めるということです。医療扶助の問題ですが、47%を占めている。生活保護受給者の場合、窓口負担ゼロだから安易に病院へ行ってしまう傾向がある。大阪市内の場合、39の病院が生活保護専門でやっています。毎日、病院がバスで送り迎えする。これもやはり是正していかなくてはなりません。さらに重複処方の問題。若い人で生活保護をもらっていて、精神系の病院に行き向精神薬を処方してもらう。同じように複数の病院から薬をもらってきて、ネットで売っている。本人はタダです。病院もレセプトを請求すればいい。結局は税金からそのお金が出ていくわけだから、こういったところも厳正にチェックをしていかなければいけない。
    【図11】我々が考えている「生活保護の抜本的な見直し」をご覧下さい。例えば最低賃金で働いている人、もしくはこれまで保険料を払って、年金をもらっている人よりも、生活保護世帯の収入の方が多い。これはおかしい。10%ぐらい引き下げたほうがいい。今、貧困ビジネスなどと言われるわけですが、現金で渡すのではなく、食費の一部や住宅、現物でできるものは現物給付に変えていった方がいいのではないか。3番目、やはり働いてもらう。そのための支援をしていくことを基本にすべき。4番目に、過剰診療の防止などによる医療費扶助の大幅な抑制、ということで、恐らくこの4番目だけでも数千億円出ると思います。最終的には、やはり国民番号によって、きちんと重複処方していないかチェックできる形が一番望ましい。当面で言うと、幾つかの病院を指定して、午前中行って、また午後に行ったら「今日2回目じゃないか」というのがわかるような形にしていった方がいいのではないか。

    生活保護が一番典型ですが、やはり頑張れる人に頑張ってもらう。自立できる人には自立してもらう。「自助」を基本にして、地域での助け合い「共助」、しかし本当に困っている人にはきちんと国が支援をする「公助」。この順番で社会保障は組み合わせていくべきです。今の民主党はいきなり「公助」からスタートするので、どうしても他力本願、依存症の人が増えていくのではないか。これからの与野党交渉の中でも、基本的なコンセプトとして、そういう考えに立ち返れるかどうかといったことを、民主党に問い質していきたいと思っています。

     

    5.今後の政局・政界の展望
    これから2週間が、まさに今年一番大きな政局の1つになってきます。今日から始まるかわかりませんが、自民党と民主党の協議も始まります。公明党は我々よりもハードルが高いから、その協議に乗れるかどうか。
    6月21日が会期末。この税と社会保障の関連7法案のうち、幾つかはおろすことになりますが、中心部分を成立させようと思うと国会を延長せざるを得ません。お盆前、8月上旬ぐらいまで延長ということになると思いますが、まず衆議院段階で、6月21日までに採決できるかどうか。自民党とも合意できないままに採決となり、法案が否決された場合、確実に野田さんはそこで解散します。消費税引き上げや財政再建が遅れると、今のヨーロッパの状況を考えても、日本国債の格下げ問題など、マーケットに混乱が生じ、決していいシナリオではありません。しかし、衆議院段階で否決ということになれば、野田さんは間違いなく解散に打って出る。
    衆議院で可決させるためには、我が党と合意をしなければならない。自民党が提案する社会保障の基本的な考え方をのむことになるが、この場合は民主党が分裂ということに当然なっていく。おもしろい構図です。我々としては、社会保障の基本法を民主党がのむということは、マニフェストは撤回した、という解釈をします。しかし、野田さんの方は、マニフェストは撤回してない、しかし社会保障については考え方を共有する、と。一方、小沢さんのグループは、マニフェストを撤回したから反対する。割れ方がどれぐらいいくかわかりませんが、内々の票読みで、小沢さんの方は造反が100名出ると言っている。執行部は30人と言っています。恐らくその間に入ってくる。まだきちんと票読みができる段階まで行っていませんが、相当規模の造反が出てくるのではないかと思います。
    3つ目は、採決まで行けないパターン。輿石さんが党の分裂を回避するためにずるずると引き延ばし、色々な理由をつけて採決をしないまま国会が閉じるということになると「政治生命をかける」と言った野田総理の“総理”としての政治生命は間違いなく終わります。マスコミからも批判が出るし、与野党からも批判が出る中で、辞めざるを得ない。そして9月には4人目の総理ということになっていくのではないか。
    一番望ましいのは、消費税について与野党で合意をし、この国会で少なくとも21日までに衆議院で可決、8月までに成立。その後、選挙にいくというのが一番いいシナリオだと思います。話し合い解散などと言われていますが、解散権は総理にしかありません。最終的には総理がどう判断するかということにかかってきますが、今、私が政府・与党の幹部と話しているのは、これから1年を考えて、世界経済全体を見てもいい見通しがない。急に野田政権の支持率が浮揚することなど考えられない。恐らくワンショットで一番いいタイミングは、小沢さんを切った時、そこで解散するのが民主党の議席は減るが、少なくとも傷は一番浅い。
    明日はもう少しよくなるんじゃないか、来月はもう少しよくなるじゃないか、などと思っているうちに、麻生さんと同じ状況になってしまう。任期満了までいって、メタメタに負けるという状況になるわけだから、少しは我々の失敗に学んだ方がいい、という話をしているところです。
    最後は、消費税が通ったにしても解散をしなければ、もう1つ我々はカードを持っている。というのは、特例公債法(赤字国債を出すための根拠法)がまだ通っていない。去年は、これと引きかえにしぶとい菅さんも辞めることになった。今年は与党にとってもっと厳しい状況で、昨年、復興に関する協議をする中で、復興の事業は他とは切り離して特別会計でやる、と政策論的にはそうだった。しかし政局論的には、特別会計をつくることによって、一般会計がいくら遅れても、復興事業には全く影響が出ないようにした。ということは、去年はいつまでも引っ張ると、与党も問題が出るが、我々も復興の足を引っ張ることとなり、こちらにも批判が来るということだったが、今年は復興とは全く関係ない特例公債にしてある。去年は菅さんが首を差し出すことで特例公債法を通しましたが、今年は総理の首だけでは済まない。やはりここまで来たら、マニフェストも変わり、消費税に対しても変わったのだから改めて国民に信を問うべきだ、とこの特例公債を最後のカードに使っていく。
    消費税の合意をきっかけに解散に持っていくのか、特例公債で解散になるのか、パターンはいくつかありますが、秋までに解散になるという可能性が極めて高い。また、そうしていかなければいけない。選挙だからやってみなければわかりません。ただ、民主党が相当議席を減らし、自民党が議席を増やすことは間違いない。第一党にはなれると思っています。自民党と公明党で連立を組んで過半数いけるかどうか。これはその時の雰囲気にもよるので、やってみないとわかりません。ただ確かなことは、圧倒的に自民党が勝ったにしても、参議院はまたねじれるということです。そうすると、今の民主党と同じようにどの法案も通らない。
    ではどうすべきか。選挙が終わったら民主党は分裂しています。その時は、自民党、民主党の一部、公明党が連立をして、衆議院でも参議院でも過半数を持ち、大切な法案は野党の協力がなくても通せるような体制をつくっていくことが必要ではないか。また、そうならなければ、日本の政治が動かない。恐らく秋以降はこうした政界再編も視野に入れながら動く必要も出てくる。こういう思いで取り組んでいきたいと思っています。

    本日は長時間ご清聴頂き、誠にありがとうございました。

     

     

     

自民党幹事長 衆議院議員茂木としみつ

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