2004年1月15日
1. 出張概要:
1月12日から15日にかけて、IT及び科学技術分野における国際協力の推進について意見交換するためマレーシア及びシンガポールを訪問しました。
現地では、シンガポールのゴー・チョクトン首相と会談するとともに両国のIT担当大臣と我が国とのIT分野における2国間協力及びアジア多国間協力の一層の推進について意見の一致をみました。
また、科学技術分野については、政府間での政策対話の実現に向け、まず専門家による意見交換を実施することで合意しました。
マレーシア新首都プトラジャヤの首相官邸
2. 会談内容:
(1)マレーシア
<1> レオ・モギー エネルギー・通信・マルチメディア大臣
レオ・モギー大臣は1995年より現職を務めるベテラン大臣。私よりアジアと欧米との情報流通量格差について示唆し、これを解消するためのICパスポートなどのマルチアプリケーション導入への協力について提案。今後両国で検討していくことを確認。 先方よりマレーシア国内のデジタルデバイド解消について日本の協力を期待する発言。これに対し、私より日本の技術力、知見を利用し協力できる可能性がある旨発言。 <2> ラウ・ヒエンディン 科学技術環境大臣 ゴルフ場の一望できるホテルのレストランで昼食をはさんでの会談。私より、科学技術に係る活動が大規模化し、一国で対応することが難しくなっていることから、アジア全体としてアジアにおける科学技術協力をどう進めていくかの政策対話を提案。我が国の総合科学技術会議の専門家とマレーシアとの専門家との間で幅広い観点から意見交換を行うことで合意。 また、域内の科学技術の発展のためにはアジアにCOE(Center of Excellence:中核的研究拠点)を整備していくことが必要であるとした上で、その一例としてITER(International Thermonuclear Experimental Reactor:国際熱核融合実験炉)の我が国誘致の重要性について理解を求めた。 |
(2) シンガポール
<1> ゴー・チョクトン首相
ゴー・チョクトン首相はリー・クワンユー前首相のトップダウン型とは対照的なコンセンサス作りを重視する政治スタイル。和やかな雰囲気の中で2国間問題やアジア経済全般について幅広い意見交換ができた。 私からはIT分野で先進国である日本とシンガポールがICパスポートなどのマルチアプリケーション、知的財産分野などでの国際協力をリードしていくことが重要であることを指摘し、ASEANと日本のIT担当大臣会合において、こういった協力の推進を検討していくことが有意義である旨発言。先方からも、同感であり、協力を推進していきたい旨発言。 ゴー・チョクトン首相より、インドのムンバイからシンガポール、香港、台北、韓国を経由して日本に至る「アジアIT都市ベルト構想」の紹介があった。さすがにASEANの中心シンガポールで10年以上首相を務める同氏の発想は大きい。 <2> リー・ブンヤン情報通信芸術大臣 まだ、55歳の若さだが80年代半ばより政府の要職を務める実力派大臣。現在はASEANのIT担当大臣会議の議長も務めている。先方より電子パスポートについては、既に独自のシステムをASEANで共通に使えるよう連携していく話し合いがなされているが、ここに日本や中国・韓国を加えたASEAN+3へと拡大することは意義があると発言。私よりは、日本も電子パスポートの導入を検討中であり、今後両国間でこの分野の協力を進めていきたい旨応答。 私からの特許情報のアジア域内での共有システムについての提案に対し、特許情報公開についてe-ASEANで進めているコンテンツ拡大施策の一つとして実現できることは有意義であり、日本の技術やノウハウへの期待は大きいと先方より発言。 <3> ジョージ・ヨー貿易産業大臣
私より一つ年上の1954年生まれ、49歳。次の次の首相候補といわれているシンガポール若手政治家のホープ。ジョージ・ヨー大臣と会うのは、一昨年のメキシコAPEC閣僚会議、昨年のエジプトWTO閣僚会議以来3回目。これまでは世界貿易についての議論が中心だったが、今回は科学技術分野での2国間協力やアジア多国間協力について幅広い意見交換を行った。お互い上着を脱いでのとてもフランクな話し合いだった。マレーシア同様、科学技術分野での政策対話を行うことで意見の一致をみた。 |
3. 視 察:
(1) マレーシア
<1> クアラルンプール空港電子出入国管理システム 世界初のICパスポート及び国民IDカードであるスマートカードを利用した出入国管理システムを視察。マレーシアでは1998年よりICパスポートを導入しており、出入国管理の自動化を実運用レベルで実現しているのは世界でもマレーシアのみ。ICパスポートの発行枚数は既に400万枚を超えているとのこと。ICパスポートを使った出入国管理の現場を視察し、我が国においてもICパスポートの導入について更なる加速化が必要と実感。ただし、マレーシアでは指紋認証を中心としておりICAO(International Civil Aviation Organization:国際民間航空機関)の標準はじめ、今後は認証システムの早期の国際調整が必要と感じた。 <2> マルチメディア開発公社 (MDC: Multimedia Development Corporation)
首都クアラルンプール、新首都プトラジャヤ(マレー語で「偉大なる王の子供」の意味)を含んだ、東西15km、南北50kmのエリアのIT化を進めるマルチメディアスーパーコリドー(MSC)構想の具体的推進を担当しているのがマルチメディア開発公社。同公社のフラッグシップセンターにおいて、MSCの推進状況の説明を聞くと同時に数々の技術展示を視察。技術展示では、特に3Dグラフィックスによる人造新首都であるプトラジャヤの完成予想表示システムのデモンストレーションが圧巻であった。3Dグラフィックスの技術的な能力もすばらしいが、近代建築とイスラム様式を組み合わせたコンプレックスからなる新首都プトラジャヤの建設とこれにマルチメディアスーパーコリドーを組み合わせる国家指導力の強さについても実感。 <3> マルチメディア大学 (MMU: Multimedia University)
世界の一流企業(Microsoft、NTT、Nokia等)がサポートする多彩で高度な研究内容をもつテレコムマレーシア100%出資による私立大学。学生数14,000人、うち43カ国から約200人の留学生を受け入れている。1997年4月、マルチメディアスーパーコリドー計画に沿ってその設立を閣議で決定。現在、工学部、情報技術学部、創造的マルチメディア学部など7学部からなる情報工学系大学。 現地では、JICAの支援する衛星ネットワークを使った遠隔教育システムの実例、インターネットによるeラーニングの提供例なども視察。研究内容は高度なレベルにあり、IT人材育成の面でもマレーシアの明確な取り組みを実感した。 |
(2) シンガポール
<1> シンガポール港湾公社(PSA:Port of Singapore Authority)
シンガポール港湾の取り扱いコンテナは世界全体の約18%に上り、世界123カ国、600港との間の貨物流通を行っている、そのシンガポール港湾も含め、世界9カ国で15の港湾事業を展開するのがシンガポール港湾公社(PSA)。大量のコンテナの置かれたヤード(ここは完全無人化)及びシンガポール港湾を集中管理するコントロールルームを視察。コンテナ取り扱いシステムの完成度はさすがに世界有数の貿易港であることを再認識するに足るものであった。年間1000万トン、1億7000万コンテナを取り扱うが、発生する取り扱いミスはわずか年10コンテナ程度とのこと。全ての貿易手続きのオンライン化推進は、単なるシステムの接続に終わらず、全体としての港湾業務のゼロベースの見直し、効率化を念頭においたものであり、我が国の港湾ワンストップ化においても学ぶべき点は多いと感じた。 |