6月19日から25日まで、エジプトでのWTO非公式閣僚会合とイスラエル・パレスチナの中東和平協議のため、現地に出張しました。昨年10月に外務副大臣に就任して以来、6回目の海外出張です。
エルサレム市街 嘆きの壁 金のモスクをバックに
1.WTO非公式閣僚会合(6月20~22日)
- 会場はエジプトの紅海岸に面する避暑地、シャルム・エル・シェイク。ただ、会議で1日中ホテルに缶詰で、外の天気があまりにいいので(しかもホテルにゴルフ場が併設!)、却ってフラストレーションが溜まる。
- 今回の閣僚会合には、米国のゼーリック通商代表、EUのラミー貿易担当欧州委員、オーストラリアのヴェイル貿易大臣はじめ、30ヶ国の国・機関から閣僚級が出席。発展途上国からの参加大臣も多かった。それにしても、いつものことながら、米ゼーリック通商代表の意見表明は法廷での裁判のやりとりのようだ。
- 会議では、(1)農業、非農産品市場アクセス、サービス、(2)TRIPSと公衆衛生、S&D(途上国への特別のかつ異なる待遇)や実施等の途上国問題、さらに (3)シンガポール・イシュー等について13時間に亘って議論が行われた。
- 特に農業分野では、未だに各国の立場の違いが大きいと感じられた。ただ、メキシコ・カンクンの閣僚会議(9月)までもう時間が限られているとの認識は共有された。閣僚レベルで危機感をもって、各分野で具体的にプロセスを前に進め、交渉を加速させる必要性が確認された。
2.中東和平「ロードマップ」に関する国際会議(6月23日)
- イスラエル・ネタニア大学で行われた上記会議に出席し、第一セッションにおいてスピーチを行った。同席していたのは、バラック・イスラエル前首相、ゴルバチョフ・ソ連元大統領、ワヒッド・インドネシア前大統領、デ・クラーク南ア元大統領で、聴衆も大半がイスラエル人ということもあり、会議の途中、「こんなところで爆弾テロがあったら、大変だな」と思った。
- スピーチでは、中東和平における我が国の中立・公正な立場を説明し、テロへの強い非難とともにイスラエルの軍事行動への懸念にも言及、ロードマップの履行とアッバース首相の改革への支援を訴えた。同時に、我が国のパレスチナ支援策として、人道支援・改革支援・信頼醸成の三本柱につき説明し、日・アラブ対話フォーラムの開始に触れた。
- 自分で言うのも変だが、英語でスピーチしたこともあり、まずまずの反響や拍手があったと思う。
3.イスラエル・パレスチナ要人との会談(6月24日)
(1) シャローム・イスラエル外相との会談
イスラエル シャローム外相と会談
- シャローム外相は次の首相候補とも言われる実力者。中東和平につき、私から暴力の継続する現状への懸念を伝えた。テロを強く非難しパレスチナ側にも我が国として取り締まり強化を求めるとする一方、イスラエル側の軍事行動も一般市民を巻き込み、情勢をさらに悪化させることを指摘した。また、双方の自制、ロードマップ第一段階の措置の完全な実施、アッバース首相の改革努力への支援を求めた。シャローム外相は、イスラエルとしては移動制限緩和や入植地撤去等ロードマップ諸措置を実施している、パレスチナ側がハマス等テロ組織を解体することが重要であり、日本もパレスチナ側を説得して欲しい旨要請があった。
- テロ、大量破壊兵器について、シャローム外相からシリア・イランの和平反対派やヒズボラへの支援、イランの核開発疑惑に言及があり、日本よりシリアやイランに対する働きかけの要請があった。これに対し私より、両国には働きかけてきている旨説明すると同時に、イスラエルに対してもNPT、CTBTへの参加を求める旨要請した。
(2) パレスチナ自治政府・アッバース首相・シャアス外務長官との会談
ガザ地区にてパレスチナ自治政府アッバース首相と面談
- それぞれの会談において、私から、暴力継続への懸念を述べ、イスラエルにも自制と改革努力への支援を求めているとしつつ、テロはどんなことがあっても正当化し得ず、テロを封じるための最大限のリーダーシップの発揮を求めた。アッバース首相から、改革プロセスはパレスチナ人自身のためのものであり、継続していく決意である、二つの国家の平和共存の実現まで和平の努力も続ける旨表明があった。
- また、二つの側面で前向きな動きがあるとして、最新の状況の説明があった。
(1) イスラエルとの交渉:ガザ、ベツレヘムからのイスラエル軍撤退につき合意が近づいており、同夜中にも回答があることを期待。
(2) ハマス等各派との交渉:停戦(暴力停止)につきハマスから前向きな反応があり、翌日にも回答を受ける予定
以上の交渉で双方が良い結果ならロードマップは前進する。
- パレスチナ支援については、私から人道支援・改革支援・信頼醸成の3つの支援策を続けていく旨述べ、和平プロセスが順調に進めば日本としてさらに支援しやすい旨指摘した。先方は、日本のこれまでの支援への謝意を述べるとともに、川口外務大臣の発表したパレスチナ支援パッケージの速やかな実施を要望、さらに警察や市民防衛(消防)への支援、停戦後のインフラ等次の段階の支援についても期待が表明された。
(3) 会談の成果
- 米パウエル国務長官による中東訪問(6月20~22日)とアカバでの四者閣僚級会合(6月22日)、さらにライス米国家安全保障担当大統領補佐官の現地訪問(6月28~29日)等、事態の打開を目指した米国はじめ国際社会の取り組みも活発化し、また現地当事者間で水面下での交渉が続けられる中で、時宜を得た訪問となったと思う。我が国としても現地にてイスラエル・パレスチナ双方の交渉責任者に対し、改めて我が国の立場を直接伝えつつ、暴力の停止と和平実現に向けた働きかけを行い得た。
- 帰国後、曲がりなりにもパレスチナ武装勢力が停戦を表明し、イスラエル側もパレスチナ自治区からの軍隊の撤退に合意したのは、自分なりにバグダッドに続いて、また危険だと言われるパレスチナ自治区入り(日本政府高官としてのガザ入りは2年ぶり)した甲斐があったと思っている。