政策提言 政策提言

外務省改革案



はじめに

 外務省改革は単に外務省の内部改革や不祥事の再発防止策ではなく日本外交のあり方そのものを転換する視点からの改革でなければならない。すなわち、従来通りの対応や個別改善ではもはや日本が直面する外交課題を解決し、まさに“国益を担う外交”として国民の負託に応えることは困難との認識が必要である。国家意思としての外交を展開するため、政府全体として組織や人材のあり方を抜本的に見直して行かなければならない。

求められる政治決断

 このような認識に立って「外務省改革に関する小委員会」では先に「外務省改革案―国益を担う外交の再生:31の提言」をとりまとめた。改革案は大使・総領事問題から、人事制度、組織改革、さらに予算・会計や意思決定にまで及ぶ広範かつ詳細な改革提言である。これら改革案の多くは外務省自らにおいて主体的取り組みが期待されるものであり、すでにその胎動も見られる。しかし、その後の瀋陽事件の発生などにより国民の外務省への不信は一層高まり、外務省の抜本改革は喫緊の課題となっている。特に、人事制度、組織改革、予算配分などの最重要課題については明確な政治決定により、大胆かつ早急な改革を促すことが求められる。したがって、先の「31の提言」を踏まえ、ここに改めて「政治主導で断行すべき10の提言」を提示する。

政治主導で断行すべき10の提言

(1)主要機能の強化:人事機能及び危機管理機能の強化

提言1:人事機能の強化と硬直的人事の見直し

  • 省内外の人材のより柔軟、機動的活用のための大臣官房人事課の機能強化
  • 人事の一元化とチャイナ・スクール、ロシアン・スクール等スクール別の硬直的人事の是正
  • 幹部候補は国際機関・外部機関へ出向、本省幹部への昇進にあたっては内部での評価より国際機関・外部機関での成果を優先
  • 法務部門、経済部門、情報部門等専門分野で、外部、他省庁と積極的に人材交流(但し、在外公館勤務者については英語等の基本能力を要求)

提言2:危機管理機能の強化

  • 本省から現場に到る指揮命令系統の一本化、抜本的見直し
  • 在外公館の警備体制・施設の強化の為、本年度、来年度の施設整備費をこの分野に重点的に再配分
  • 難民・亡命者の動向把握。要注意公館を危機事態タイプ別にランクづけし、高ランク公館に人員、設備等を重点配分(敷地内警備は日本側の専門員にて行なう等)
  • 非常時に備える不測事態対応策(コンティンジェンシー・プラン)の策定
  • 在外公館における難民・亡命者受け入れについて、政府としての基本方針を早急に確立し、必要な法整備、体制整備を進める

(2)大使制度:「外務省の外務省による外務省のための外交」からの脱却

提言3:大使の選任と国会での資格審査

  • 大使は国の顔、国家意思として政治決定。特に主要国大使は首相自らが選任
  • 大使予定者の外務委員会・外交防衛委員会での選択的参考人招致
  • 国会による大使の資格審査の導入検討(3年を目途)
  • 上記を実現するため、外務委員会・外交防衛委員会のもとに「外交審査に関する小委員会」(仮称)を設置し、参考人招致の具体的手続を検討し、来年通常国会より実施。その後、小委員会では参考人招致の成果等をフォローしつつ、大使の資格審査の導入の可否について3年を目途に成案を得るものとする。

提言4:大使への外部人材、専門職の登用

  • 外務省Ⅰ種職員がほぼ独占(8割)している大使ポストについて、優秀な外部人材、外務省専門職の登用を積極的に進める
  • 具体化のため目標値を設定:5年以内に外務省外(民間、他省庁)で2割、専門職を含めると4割を実現
  • 実施状況をフォローしつつ、「外務省外」については、長期的にさらに高い目標値の設定(3割)を検討

(3)組織改革:総花主義の外交から国際協力重視と機能強化主義への転換

提言5:条約局の廃止と専門能力の強化

  • 条約局の機能は大臣官房国際法務部へ
  • 法務部は、条約締結業務や国内法、国際法に関する既存のテーマに加え、サイバーテロや越境犯罪、法律のグローバルスタンダード化など先端課題にも取り組む専門家集団へ
  • 法務部には、外部人材(弁護士等)を法律顧問として登用
  • 内閣法制局との今後の調整のあり方を検討した上で最終的に決定

提言6:国際社会協力局の創設

  • 国際社会協力部を局へ格上げし、非ODA支援策、NGO対応力の強化
  • 現在、総合外交政策局にある科学原子力課および国際科学協力室は国際社会協力局に統合。
  • 将来的に上記国際社会協力局、経済協力局を外庁としてODA及び非ODAを専門に実施する「国際協力庁」を創設
  • 国際協力事業の実施体制、評価システムの見直し(透明性、実効性、効率性の確保と内部評価から外部評価へ)

提言7:アジア大洋州局を2局体制へ

  • アジア・近隣外交重視の視点から、業務範囲の広い「アジア大洋州局」を分割し、「北東アジア局」及び「南西アジア大洋州局」を創設
  • この場合、上記の組織改革プロセスとの関係では2つのオプションが考えられる
    (1)当面、「国際社会協力局」の創設を優先し、アジア大洋州局の分割は外庁「国際協力庁」の発足時とする。
    (2)「北東アジア局」及び「南西アジア大洋州局」の創設を先行し、現在の国際社会協力部については、外庁「国際協力庁」の発足に向けてまず経済協力局に移行、経済協力局を「国際協力局」とする。

提言8:総理直轄チームによる首脳サミットへの対応

  • 外務省(外務審議官・経済局総務参事官室)中心のサミット対応から総理直轄サミットPT(首相官邸に設置)に対応窓口を格上げ
  • 各省庁出向者によるPT組成、政治主導で個性ある首脳外交を展開
    (G8各国のシェルパ機能はカナダ以外外務省内ではなく、大半が大統領府、首相府に)

(4)予算及び会計:政治決断による新たな外交予算配分

提言9:非ODA国際協力事業への予算配分

  • 「北方四島支援委員会」及び類似する「国際機関」の廃止
  • 移行期間の後、この種の事業は「国際協力庁」が所管
  • 予算の次年度繰越し等が可能な「国際協力予算枠」(ODA+非ODA)の創設の検討
  • 上記国際協力予算をもって平和構築・平和定着、新国家建設、警察司法協力など、従来必ずしもODAの対象としてこなかったニーズに対する事業を包括的且つ機動的に実施する
  • 同時にグローバルな課題に対する先進国間の協力(環境、科学技術・学術交流等)にも機動的に活用

提言10:報償費・機密費へのアカウンタビリティ(説明責任)の向上

  • 報償費と「外交機密費」の峻別
    (1)報償費の内容を最大限まで峻別、公開出来る費目は切り出し、本来の「外交機密費」の姿を確立。
    (2)「外交機密費」予算は、前年に準ずる固定化されたものではなく、必要に応じて増減や次年度繰越しを可能とすべき。
  • 機密費を審査する国会機能の強化
    (1)会計検査院の特定事項検査の強化(国会法105条の改正)
    (2)国会に守秘義務を課した外交機密費等の検査機関を設置することを積極的に検討(3年を目途)
  • 前述「外交審査に関する小委員会」にて検討を進め、会計検査院の特定事項検査の強化については、年内を目途に成案を得るものとする


平成14年8月1日




外務省改革案

― 国益を担う外交の再生:31の提言 ―

平成14年4月17日

自由民主党

政務調査会外交部会

外務省改革に関する小委員会



内  容 

 はじめに

改革の5つの視点

具体的改革案
(1) 大使及び総領事:提言1~5
(2)人事制度:提言6~10
(3)組織改革:提言11~17
(4)支援委員会と非ODA支援:提言18~20
(5)主要機能の強化:提言21~25
(6)予算・会計:提言26~28
(7)意思決定:提言29~31

実施体制1~12

資料1: 外務省改革に関する小委員会メンバー
資料2: これまでの検討経過
資料3: 外務省新組織への移行図
資料4: 提言とその実施体制(案)

はじめに

外務省改革は単に外務省の内部改革や不祥事の再発防止策ではなく日本外交のあり方そのものを転換する視点からの改革でなければならない。すなわち、従来通りの対応や個別改善ではもはや日本が直面する外交課題を解決し、まさに“国益を担う外交”として国民の負託に応えることは困難との認識が必要である。国家意思としての外交を展開するための組織や人材のあり方の抜本的な見直し、国民意識を適切に外交に反映させるための政治や国会との関係の再構築が求められているのである。したがって、「外務省改革に関する小委員会」では改革案の検討に当たって、まず改革の大きな指針を設定した。


改革の5つの視点

(1)国家意思:省益ではない国家意思としての戦略的外交の展開→その場しのぎの個別対応の排除、「外務省の外務省による外務省のための外交」からの脱却

(2)人材:視野の広い新しい人材育成と外部人材の積極的導入→“特権意識”“閉鎖社会”の打破、語学中心の固定的・分散型人事制度から専門能力による適材適所の人事システムへの転換

(3)組織:時代の変化に対応したゼロベースの組織改革と主要外交機能の強化→総花主義の外交から国際協力重視と機能強化主義への転換、広報・情報・危機管理機能の強化

(4)政治:政策立案と外交実務の明確な切り分けと政策立案プロセスの高度化→「政と官の接触禁止」への逃避ではなく、政策立案過程への「政」の積極的参画と外交実務での「官」の主体性の確保、「政」と「官」を結節する組織・機能の集中的強化

(5)国会と国民:国民へのアカウンタビリティの向上→重要案件への国会の関与と外交と国内(国民)に「国民意識」「国民感覚」を連結させる仕組み作り

以下、これら5つの視点に沿って、改革の具体案を提言する。




具体的改革案
わが国外交及び外務省への国民の信頼を回復し、わが国が国際社会の中でより有効な外交活動を展開してゆくためには、不祥事の再発防止や不正・疑惑の根絶にとどまらず外務省の組織、人事から意思決定、運営システム、さらに外務省職員の意識改革まで多面的な抜本改革が必要である。わが国外交と外務省の新生に向けて、以下7つの改革項目に沿って31の具体的改革案を提言する。

(1)大使及び総領事
省益ではない国家意思としての戦略的外交の推進に向けて、内閣主導による適材適所の大使の任命と在外公館、国際機関等の位置付けの戦略的見直し

提言1:大使のあり方
  • 大使は国の顔、国家意思として政治決定
  • 大使予定者の外務委員会・外交防衛委員会での選択的参考人招致(理事会で参考人の必要性を協議)
  • 国会による大使の資格審査の導入検討(3年を目途に導入の可否、具体的方法を決定)

提言2:大使及び在外公館・国際機関の戦略的位置付け

 (1)主要国・主要機関大使

  • 主要国大使は首相自らが選任(外務大臣に指示)
  • 過去の権威より国際社会の中での現在、将来の重要性に着目:英仏大使vs国連、ブラッセル代表部
  • 国際社会、地域圏での戦略拠点の重視:アジア重視(中国、韓国、インドネシア等)、サウジ/エジプト、ブラジル等

 (2)兼轄・兼任大使

  • 在外公館の平均的充実より拠点公館の重点的強化
  • 兼轄・兼任大使の活用により大使ポストを1割削減(過去の投票行動、日本との政治経済関係を再評価)
  • 近隣国を兼轄・兼任する大使については、幅広く活動出来る中堅・若手人材の登用
  • 地域統括大使の導入の検討

提言3:外部登用及び人員枠
  • 目標として30%を外務省外(民間、他省庁)からの任命:まず5年以内に2割を実現(“質”を伴った“量”の確保への能動的努力が必要)
  • 政治キャリア、閣僚経験等を有する人材の登用
  • OECD・ジュネーブ代表部等での他省庁とのハイレベルの人事交流
  • 外務省の中でも専門職からの任命を推進:5年以内に専門職で2割、民間、他省庁も含めると4割を実現
    (現行:大使117名中、他省庁・民間より10名、専門職より15名で21%)
  • 大使以外の在外公館職員についても外部登用は外務省人員枠の外枠とし、在外公館人員の増強を図る。

提言4:大使任期
  • 原則として3年以上とする
  • 国際機関については4年とする
  • 大使の帰国報告を正確に記録し(秘密文書)、大臣に報告、次期大使に引き継ぎ

提言5:総領事
  • 外交政策の立案、実施と領事業務等専門・サービス業務の区分
  • 総領事は領事業務の最高ポストとして、原則として専門職のキャリアパスに位置付け(現行:総領事66名中、専門職は31名)
  • 総領事を通過ポストとせず、最終ポストとして任期は5年
  • 総領事館の国別設置状況の見直し(ex.米国、ブラジル等の総領事館の改廃)
  • 5年以内に総領事館の総数を60に削減し、その後はスクラップ・アンド・ビルド方式とする

実施体制1: 総理直轄の「大使等任命検討委員会」(仮称)を設置し、年内に大使人事のあり方についての成案を得るとともに、来年以降は総理のリーダーシップを補佐する(ただし、総領事問題については後述の「外務省改革実現委員会」にて取扱う)

実施体制2: 外務委員会・外交防衛委員会のもとに「外交審査に関する小委員会」(仮称)を設置し、参考人招致の具体的手続を検討し、来年通常国会より実施。その後、小委員会では参考人招致の成果等をフォローしつつ、大使の資格審査の導入の可否について3年を目途に成案を得るものとする。

(2)人事制度
“特権意識”の排除、語学中心の固定的・分散型人事制度から大臣官房主導による適材適所の人事システムへの転換と外部人材の積極的導入

提言6:研修
  • 誤った特権意識を植えつけないための研修プログラムの見直し
    (1)初任研修への国内・国民との接点の導入(中小企業、地方自治体等の現場研修、国内ボランティア活動など)
    (2)海外語学研修での外交旅券発給の中止
  • 語学とI種・専門職のカベの打破
    (1)I種と専門職の語学研修の共通化(研修期間で全員が英語及び第3語学を選択する制度の導入)
    (2)在外研修後の任地については(直後の任地を除き)国際機関または英語圏の国とし、語学の専門性にとどまらない幅広い経験をOJTにより習得

提言7:マルチ人材の育成とマルチのキャリアパス
  • 幹部候補は国際機関・外部機関へ出向(最低でも代表部等勤務)
  • 本省幹部への昇進にあたっては内部での評価より国際機関・外部機関での成果を優先
  • 幹部研修制度を導入し、研修時に外部専門家の評価も加えて将来のキャリアパスについてもアドバイス
  • 本省入省から大使で終結する単線のキャリアパスではなく、多様なキャリアパスの設定
    a.本省幹部等
    b.国際機関幹部等(Ph.D.の取得、リボルビング・ドア人事)
    c.調査研究分野(日本版「外交評議会」の創設)
    d.地域や文化交流分野の専門家
    e.広報、情報、経済、援助等の“スーパースペシャリスト”

提言8:固定的・分散型人事の見直し
  • 大臣官房人事課の機能強化と人事一元化(スクール別人事、会計担当、電信担当人事の見直し等)
  • I種中心の課長-首席事務官-総務班長のラインを見直し、地域調整官を課長直結とし、総務班制度は廃止
  • 指定席・長期滞留の排除(ex.ロシア課長、中国課長、官房会計課等)
  • 語学以外の専門性を重視し、“カントリースクールによる閉鎖的な人事”とならないよう配慮

提言9:外部人材の導入
  • 外部専門家の登用(広報、条約、NGO・国際機関対応など)
  • 他省庁との人材交流(情報、危機管理、経済分野、OECD・ジュネーブ代表部など)

提言10:外務省OB、大使OBの役割
  • 大使OBの民間企業への天下りの自粛
  • OBのNPO、NGO等も含めた外交活動、国際交流活動の継続
  • OBの活動の外務省ホームページ等での紹介
  • 大学での将来の外交人材の育成

実施体制3: 外務大臣直轄の「外務省改革実現委員会」(仮称)を設置し、委員会人事チームにおいて年内を目途に新人事制度の詳細設計を行なう。出来るものから実行に移し(Early Harvest)、平成16年度より新人事制度を完全実施する。


(3)組織改革
総花主義の外交から国際協力重視と機能強化主義への転換(組織改革でのキャッチアップとより先を行く組織課題への対応)

提言11:条約局の廃止
  • 条約局の機能は大臣官房国際法務部へ
  • 法務部は、条約締結業務や国内法、国際法に関する既存のテーマに加え、サイバーテロや越境犯罪、法律のグローバルスタンダード化など新課題にも取り組む
  • 法務部には、外部人材(弁護士等)を法律顧問として登用
  • 条約の事前審査手続きは簡略化(後述)


提言12:国際社会協力局の創設
  • 国際社会協力部を局へ格上げし、非ODA支援(仮称OPA―Official Peace-Building Assistance)、NGO対応力の強化
  • 「NGO担当大使」の導入
  • 現在、総合外交政策局にある科学原子力課および国際科学協力室は国際社会協力局に統合。(尚、軍備管理軍縮課は、安全保障の分野であり、新OPAの分野とは峻別)
  • 参事官クラスに外部人材の登用
  • 総合外交政策局は中長期の外交政策の立案に重点化

提言13:国際協力政策評価室の創設(大臣官房)
  • 経済協力局評価室を大臣官房に移し、機能強化
  • ODA及び非ODAの関係機関及び事業・プロジェクトの事前審査・事後評価の実施
  • 同時に、国際協力評価委員会(実務担当者及び外部有識者等)による外部評価を実施し、事業・プロジェクトの透明性確保


提言14:「国際協力庁」(仮称)の創設の検討
  • 将来的に上記国際社会協力局、経済協力局を外庁としてODA及び非ODAを専門に実施する「国際協力庁」を創設
  • JICA及び国際協力銀行(JBIC)の機能も「国際協力庁」に統合、もしくは一体化運営の確保
  • 内外NGOと連携、内外NGO活動の支援の強化
  • ODA及び非ODAを担う国内NGO人材の発掘・教育支援

提言15:経済局の組織改編
  • 現行の各課はフォーラムごとから、政策分野ごとの区分に再備(分掌参事官制度の導入)
  • 国際経済2課(金融、航空)、国際エネルギー課の機能は関係省庁へ移行(これらの改廃の分、後述「国際情報審議官」を新設)
  • 他省庁及び外部機関との人事交流・人材登用

提言16:総理直轄PTによるサミットへの対応
  • 外務審議官・経済局総務参事官室中心から総理直轄サミットPT(首相官邸に設置)に対応窓口を格上げ
  • 各省庁出向者によるPT組成、政治主導で個性ある首脳外交を展開
    (G8各国のシェルパ機能はカナダ以外外務省内ではなく、大半が大統領府、首相府に)

提言17:総理直轄の「国際経済代表部」(仮称)の創設の検討
  • 「経済」を主要課題とする各省庁間の総合調整・企画立案・対外交渉機能を一元化
  • 各省庁出向者及び外部人材により組織編成

※ 注) 組織の改編の議論では、アジア・近隣外交重視の視点から、業務範囲の広い「アジア大洋州局」を分割し、「北東アジア局」及び「南西アジア大洋州局」を創設すべきとの提言あり。この場合、上記改革プロセスとの関係では2つのオプションが考えられる。

  1. 当面、「国際社会協力局」の創設を優先し、アジア局の分割は外庁「国際協力庁」の発足時とする。
  2. 「北東アジア局」及び「南西アジア大洋州局」の創設を先行し、現在の国際社会協力部については、外庁「国際協力庁」の発足に向けてまず経済協力局に移行、経済協力局を「国際協力局」とする。


実施体制4: 「外務省改革実現委員会」組織チームにおいて上記オプションの検討も含め組織骨格の詳細設計を行ない(党「外務省改革に関する小委員会」との共同作業)、来年に関係政省令を整備。平成16年度より新組織体制に移行する。

実施体制5: 「国際協力庁」及び「国際経済代表部」の創設については、外交3部会のもとに「国際交渉及び国際援助のあり方小委員会」を設け、外務省及び関係省庁とも協議の上、1年以内に結論を得るものとする。


(4)支援委員会と非ODA支援

(4-1)「支援委員会」及び「国際機関方式」の問題点
「支援委員会」独自の運営上の問題も多数存在する一方で、わが国の非ODA国際協力案件全般に共通する問題も内在。
  1. 「支援委員会」の不適切な業務運営
    「支援委員会」自体の業務運営に、まず問題点が多い。ロシア側の委員は存在せず、北方領土住民からの支援要請がどのように行われたかは不明確であるし、事前調査から案件選定に至る過程も不透明。さらに入札や契約の手続きについても国内の公共事業入札に比べて厳格さに欠ける。このような業務運営の問題点を指摘できるような十分な会計監査、業務監査が行われてこなかった。
  2. 「国際機関」方式の多用とチェック機能の不足
    湾岸戦争後、ODAに該当しない国際協力案件について、2国間または多国間の協定に基づいて設置される「国際機関」が、プロジェクトの執行機関として多用されるようになった。今回問題となった「支援委員会」もこの種の「国際機関」のひとつだが、「国際機関」はその性格上日本政府の影響や監視が及 びにくく、不適切な業務運営につながる可能性を内包している。
  3. 国際協力案件への予算配分の問題点
    現行では首脳外交の成果として年度途中に発生する国際協力案件について柔軟に対応できる予算上の仕組みが存在しない。このため複数年度にまたがる事業については、「国際機関」への出資という形で年度内に一時に支出を立て、あとは「国際機関」にプールし、事業の進捗にあわせて支出するという処理が行われている。

(4-2)「支援委員会」等改革の考え方
非ODA国際協力案件に共通する問題点の解決という観点からの改革が必要。

  • 単に「支援委員会」業務を見直すだけではなく、非ODAの国際協力事業への予算配分のあり方等の根源的問題に踏み込んだ改革を行うべき。
  • 特に、今後も発生するであろう、首脳外交より発生する国際協力案件に対し、柔軟で透明性の高い対応が可能な仕組みを構築すべき。

提言18:「支援委員会」の廃止
  • 「支援委員会は」廃止し、その業務執行機能はJICAに移行。
  • JICAのノウハウ活用により、支援業務の改善、透明化を実現。
  • 独立行政法人化するJICAに非ODAを含めた国際協力案件を統合することにより、国際協力業務全体の執行の効率化を図る。
  • 現行の支援内容では、北方領土の帰属問題等の観点から、JICAの直接関与は困難であるため、北方領土支援の内容を見直す必要がある ― 当面、いわゆる「箱物支援」を中止し、支援内容を真に人道的なもの(緊急時における医療・食料・燃料等の支援)に限定。
  • 非ODA案件や首脳外交から発生するプロジェクトに対して、柔軟な予算措置を検討。(提言21)

提言19:「支援委員会」に類似する「国際機関」の廃止及びその業務のJICAへの移行
  • 「日露青年交流委員会」、「日露核兵器廃棄協力委員会」、「日・ウクライナ核兵器廃棄協力委員会」、「日・カザフスタン核兵器廃棄協力委員会」、「日・ベラルーシ核不拡散協力委員会」の国際機関は廃止。
  • 「朝鮮半島エネルギー機構」については、多国間合意に基づくものであり、北朝鮮情勢という特殊事情に関連しているため、存続。
  • 「日露核兵器廃棄協力委員会」等が事業化できずに未使用のままにしている資金については、一旦国庫に返納。
  • 独立行政法人化するJICAの業務に、新たに「平和協力事業」(=非ODA)を追加。
  • JICAはODA関連事業でのノウハウを活用して、これまで「国際機関」が実施してきた国際協力事業(非ODA)について透明性の高い業務運営を存続。
  • 同時にJICAの運営体制を見直し、「危険地域」への要員派遣も可能にする。
  • JICAのトップは外務省外から、出先の長も民間人等の登用。現地で活動するNGO等との連携強化。

提言20:新たな「国際協力予算枠」(ODA+非ODA)の設定
  • ・現行のODA枠に加え、従来の非ODA予算枠の実績をふまえた額(2~300億円程度を想定)をプラスして枠を設定。
    ・首脳外交による緊急支援等を行う際には、この予算枠にて対応。
    ・「国際協力予算枠」については、シーリングの対象外。また予算の使い残し等があっても次年度予算枠の削減はしない。

実施体制6: 党対外経済協力特別委員会・北方領土特別委員会において追加検討を行ない、まず北方四島支援委員会の改廃を早急に決定し、非ODA支援のあり方については年内を目途に成案を得るものとする。


(5)主要機能の強化
広報、情報、危機管理を今後の外交展開の上での重要機能と位置付け、これを抜本的に強化。同時に外交を支えるCS機能、シンクタンク機能の充実

提言21:広報:Communication
  • 広報官制度から「広報交流サービス部」へ格上げ
  • 外務報道官及び4課と文化交流部を統合し、広報交流サービス部として内外広報発信機能を強化
  • 広報官(外務報道官)制度の拡充
  • 海外3つの拠点に広報官を配置
    1.ワシントン  2.国連代表部  3.ブラッセル(EU)代表部
  • 広報官に外部人材の積極登用
  • 国内タウンミーティング・外務省OBによる外交広報活動の充実
  • 在外公館を通じた文化交流活動の拡充による国際相互理解の促進

提言22:情報:Intelligence
  • 国際情報審議官の新設、このもとに地域局も含めた部門横断的タクスフォースの設置
  • 外部人材の導入、他省庁情報部局との人材交流
  • 情報管理体制(情報公開を含む)の強化及び他省庁情報部局との調整
  • 情報収集衛星による情報解析機能の強化

提言23:危機管理:Contingency
  • 国際情報審議官の下で、政治・経済・社会・自然災害など危機・リスク情報の的確な収集・分析PTの設置
  • 危機管理の内外ネットワーク体制の整備
  • 在外公館警備室の業務にテロ対策を追加

提言24:CS機能:Customer’s Satisfaction
  • 領事移住部を領事サービス部として機能強化
  • 外交政策の立案・実施と領事業務等専門・サービス業務を区分し、後者についてCS機能を強化する
  • 領事館の国別設置状況の見直し(別掲)

提言25:日本版「外交評議会」(仮称)の創設:Think Tank
  • 日本最高の外交シンクタンクを目指しトップに権威ある人材を起用
  • 国際問題研究所等既存シンクタンクの取り込み
  • 外部の学識者の積極登用
  • 中立性を確保し、将来的には国の補助金・委託費に依存しない運営体制へ

実施体制7: 広報、情報、危機管理、CS機能については前述「外務省改革実現委員会」組織チームが担当。

実施体制8: 日本版「外交評議会」については年内を目途に「外交評議会設立準備委員会」を立ち上げる。

(6)予算・会計
外交予算へのアカウンタビリティの向上と国会の役割の強化。国民感覚を反映したより厳格な会計支出、監査体制への移行

提言26:報償費・機密費
  • 報償費と「外交機密費」の峻別
    1. 平成14年度予算において、既に報償費のうちレセプション費等を別項目で予算建てしたものに加え、さらに報償費の内容を峻別、公開出来る費目は切り出し、本来の「外交機密費」の姿を確立。
    2. 「外交機密費」予算は、前年に準ずる固定化されたものではなく、必要に応じて増減を可能とすべき。単年度主義の壁を特別に除外し、繰越しを可とすることも検討。

  • 機密費を審査する国会機能の強化
    1. 会計検査院の特定事項検査の強化(国会法105条を改正し、会計検査院は議院または委員会からの要請に基づき、対象機関に帳簿、書類等の提出を要求し、一定期間内に資料が提出されない場合は、その旨を国会報告することとする:米国会計検査院(GAO)の“Twenty-Day-Letter”)
    2. 国会に守秘義務を課した外交機密費等の検査機関を設置することを積極的に検討(3年を目途)


提言27:国民感覚と地域の実情に合致した給与体系と在外公館運営
  • 在外勤務者の給与体系の見直し:「在外公館の名称、位置及び給与法」の改正
  • 施設整備費の削減、公邸運営費での公私区分の見直し、設宴行事の簡略化と夫人奉仕、手当ての節減
  • 休暇制度の見直し
    1. 休暇の取得については、国別の環境条件の厳しさ等に応じて見直し、より弾力的なものとする。
    2. 「休暇帰国制度」については、最長60日を半分程度に短縮。
    3. 「健康管理休暇制度」の最長30日についても短縮。
    4. 配偶者の父母についても弔事帰国の対象に


提言28:在外公館の運営状況の適切なチェック体制の構築
  • 拠点公館の設定と拠点公館による周辺公館会計の一元管理
  • 拠点公館への本省よりの査察の強化(定期的監察及び抜き打ち査察)

実施体制9: 「外務省改革実現委員会」会計・監査チームにおいて平成15年度中に新会計基準等の詳細設計を行ない、出来るものから即実施。予算関連項目については平成15年度予算で一部実施、平成16年度予算で完全実施。

実施体制10: 機密費等審議への国会機能の強化については前述「外交審査に関する小委員会」にて検討を進め、会計検査院の特定事項検査の強化については、年内を目途に成案を得るものとする。「外交機密費等検査機関」の導入の可否についてはこの実施状況もにらみつつ、3年を目途に結論を得るものとする。


(7)意思決定
国会・与党の「条約通過機関」からの脱却、政治と外交が重要案件に集中できる仕組みづくり

提言29:政策立案と外交実務の明確な切り分け
  • 政策立案プロセスへの政治の積極的参加
  • 外交実務(領事業務、プロトコル等)での「官」の主体性の確保

提言30:「外務大臣補佐官室」(仮称)の創設
  • 現行副大臣、政務官の活動内容、役割等を再整理し、大臣を補佐する上での追加必要機能を検討
  • 大臣、副大臣、政務官チームの機能強化に向け、省内外の最優秀人材を集め(10~20名を想定)、「外務大臣補佐官室」を創設
  • 国会を担当する総括審議官、担当参事官の機能は補佐官室に移行
  • 国会議員よりの意見、要望等への対応、説明員の派遣等は補佐官室を通じて行なう
  • 重要案件、疑義のある案件への対応は事前に大臣決済の上行ない、結果も大臣へ報告する
  • 1年間の試行期間の後、「政と官のあり方」の全体整理の結論も見ながら、「補佐官室」のあり方を決定

提言31:重要案件への国会・政治の責任ある関与、国会の外交チェック機能の強化
  • 大使資格、機密費の国会審査(別掲)
  • 条約に関する部会事前審査の省略(形式化した条約審査vs、本格的外交政策の議論)
  • 新たな重要広範議案(含、重要な条約案件)の設定と党でのタイムリーかつ高度な審議(参加者を限定した非公開の政策協議等の導入)

実施体制11: 「外務大臣補佐官室」については大臣及び副大臣にて今国会中に成案を得て、新ルール設定も含め、与党に提案する。

実施体制12: 条約審議、部会審議のあり方については外交部会のもとに「部会審議のあり方小委員会」を設置し、本年半ばを目途に成果を得るとともに、次期臨時国会より実施する。



資料1:外務省改革に関する小委員会 メンバー


委員長  茂木敏充

□ 大使・人事制度
山口泰明     林芳正(参)

□ 組織改革、主要機能
小島敏男     上川陽子

□ 支援委員会と非ODA支援
新藤義孝     世耕弘成(参)

□ 予算、会計
岩屋毅     山本一太(参)

□ 意志決定のあり方
後藤田正純     舛添 要一(参)


資料2:外務省改革に関する小委員会 検討経過

第1回 平成14年2月21日  今後の進め方について
第2回 平成14年2月28日  外務省改革のこれまでの経緯と今後の方針について
第3回 平成14年3月 3日  中山太郎元外務大臣との意見交換
第4回 平成14年3月 7日  各チームのアジェンダについて委員間協議
第5回 平成14年3月12日  歳川氏(インサイドライン編集長)との意見交換
第6回 平成14年3月14日  資金及び人事のあり方について委員間協議
第7回 平成14年3月19日  旧ソ連支援委員会等について
第8回 平成14年3月26日  岡本氏(岡本アソシエイツ代表)との意見交換
第9回 平成14年3月28日  意志決定及び組織のあり方について委員間協議
第10回 平成14年4月3日  旧ソ連支援委員会等のあり方について委員間協議
第11回 平成14年4月11日  改革案中間とりまとめ
第12回 平成14年4月16日  改革案最終とりまとめ


以下の図は、Acbobat形式のファイルです.

資料3:外務省新組織への移行図

資料4:提言とその実施体制(案)


外務省改革案」全文 (以上の全文をAcrobatファイルでご覧いただけます)